日本に戻ったものの、〈日本を知る〉ためにどうしたらいいのか、アテはなかった。
 そこに偶然飛びこんで来たのが、伊勢の仕事。日本の原点、ルーツを知るには最適の場所だ。約半年、三重県伊勢市に滞在して、ありとあらゆる人と会い、話をした。
「とにかく好奇心のカタマリなので、いろんな方に会って、お話しさせてもらいました。海女さんとか木こりの方とか、土地に根ざす人に話を聞く、聞き取り調査に同行することができたんです。伊勢神宮とか熊野とか、このエリアには日本特有の気配を感じます。目に見えないものを畏れ敬う、あちらの世界とこちらの世界の境界線のような。自分がそういうのを感じられる、やっぱり日本人なんだなって、実感しました(笑)。そして、そういう日々中で〈伊勢型紙〉と出逢ったんです!」
 伊勢型紙というのは、着物の生地を染めるためのもの。柿渋で貼り合わせた美濃和紙(型地紙)に、彫刻刀で模様を掘り出してある。江戸時代には紀州藩によって保護&管理された特産品で、この型紙をつかって江戸で染められたものが江戸小紋となり、京都の友禅で染められれば型友禅となる。着物テキスタイルの元祖、かもしれない。
「初めて見たとき、電撃ショックでした(笑)。もともと着物が大好きで、小紋の柄に惹かれていたんです。しかもそれが和紙から創られているなんて!」
 伊勢型紙を使って染めるひと、伊勢型紙を彫るひと、次から次に会って話を聞くうちに、自分でも創りたくなって、型紙の図案を試作。それをベテラン彫師に見てもらったら〝型紙に興味があるなら、図案師になったら?〟と、いろいろ教えてくれたとか。
「機械を使えば大量生産は可能です。でもひとつひとつ手仕事を積み重ねていくこの豊かな感性は、職人さんたちが今まで粛々と護ってきてくれたもの。あと4~5年したらもう作れなくなるかも知れないと聞いて、それがすごく悔しかったんです。使う道具のひとつひとつが、本当に簡潔で美しい。この素晴らしさを次世代につなげていかなければ、と思いました。今現在、型彫師や染師の人たちは古い型を彫り直したり染めたりしているのですが、図案師がいないので新しい型を作り出すことが難しいのだそうです。だったら私が図案師となることで、この伝統を守ることに、少しは役に立てるかも知れない。みんなにこの素晴らしさを伝えるお手伝いは、できるかもしれないと思いました」
 ちなみに、今回のYEO #3 の着物姿、帯は古城里紗自身の図案によるものだ。平成に入って途絶えてしまった『和更紗』という技法を蘇らせたもの。
「図案師と名乗っているのに、着物を着られないのはマズイと思い、着付け教室に通いました(笑)。最近はYouTubeで変わり結びを研究したりもしています。落語が好きなので、独演会に行くときは着物で出かけることが多いですね」

  • 出演 : 古城里紗 こじょう りさ

    図案師  1981年盛岡生まれの東京育ち。1996年ボストン郊外に移住。2004年ニューヨークのSchool of Visual Artsを卒業。グラフィックデザイナーとして活動後、帰国。2010年三重県伊勢市に滞在し、伊勢型紙と出逢う。2011年頃から図案師として学び始め、活動を開始。2013年からは〝職人の手仕事に触れる体感をする〟ワークショップなどの企画運営を開始。2015年多様な伝統染織の職人とともにプロジェクトを立ちあげた。 
    ホームページ http://risakojo.com/

    イベント情報 : 第一回『カタコトの会』展 5/30-6/4
    http://seiwa-net.jp/ap/NList02.dll/?No=NS015823&CL=800&CT=010&ctg=2b

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  • 取材/文:岡本麻佑

    国立千葉大学哲学科卒。在学中からモデルとして活動した後、フリーライターに転身。以来30年、女性誌、一般誌、新聞などで執筆。俳優、タレント、アイドル、ミュージシャン、アーティスト、文化人から政治家まで、幅広いジャンルの人物インタビューを書いてきた。主な寄稿先は『éclat』『marisol』『LEE』『SPUR』『MORE』『大人の休日倶楽部』など。新書、単行本なども執筆。

  • 撮影:萩庭桂太

    1966年東京生まれ。東京写真専門学校卒業後、フリーランス・カメラマンとして活動開始。
    雑誌、広告、CDジャケット、カレンダー、WEB、等幅広いメディアで活動中。
    ポートレート撮影を中心に仕事のジャンルは多岐にわたる。
    「写真家」ではなく「写真屋」、作家ではなく職人であることをポリシーとしている。
    雑誌は週刊文春など週刊誌のグラビア撮影を始め、幅広い世代の女性ファッション誌の表紙を撮影中。
    http://keitahaginiwa.com/