アート系の大学で学び、デザイナーとして仕事をしていくうちに、古城里紗の中にひとつの〝?〟が生まれていた。
「素晴らしいものを創り出す人たちは、自分のルーツや文化の背景をすごくよく理解しているんです。自分なりの解釈でバックグラウンドを咀嚼して、それを自分のオリジナリティとして表現している。たとえばアフリカ系の人や中東から来た人たち、とてもパワフルです。でも日本人は、国民性もあるのかもしれませんけど、日本人である自分とその作品を、わーっと表現している人は少ない。そこを打ち出さなければいけない、というわけではないけれど、日本の人はそのへんを、けっこう軽視しているように見えました」
 そこで、自分はどうなのか、考えてみると。
「私はいったい、何なのだろう? って。日本人という自覚はあるものの、日本のことをまったく知らない。子供の頃はほとんど東京にいて、修学旅行で京都奈良に行きましたけど、その程度だよなって。日本はどんな国? って聞かれても、何も答えられないんです」
 それ以前に、こんなことがあった。
「高校のサマーキャンプに参加したとき、アメリカの独立記念日にキャンプファイアーを囲んだんです。けっこうインタナショナルなキャンプだったので、いろんな国籍の学生が集まっていたんですね。アメリカ国歌を歌って、次にフランス人がフランス国歌を歌って、次がカナダの国歌で、日本人に回ってきたとき、日本人の学生は6人くらいたんですけど、誰ひとり日本の国歌を歌えなかった。〝え、なんで歌えないの?〟って聞かれたときに、〝なんでだろう?〟って。考えてみたら、小中学校で一度も教えてもらわなかったんです、私の世代は。そんなふうに、意識したことなかったけど、自分は本当に日本について、知らないことだらけなんだなって。その頃から自分のアイデンティティについて、ぐるぐるぐるぐる考え始めたていたんですね」
 出した結論は、いったん日本に戻る、ということ。
「海外で仕事をするにしても、自分が納得できるまで日本を知った上で、また戻ってくればいいや、と思ったんです」

  • 出演 : 古城里紗 こじょう りさ

    図案師  1981年盛岡生まれの東京育ち。1996年ボストン郊外に移住。2004年ニューヨークのSchool of Visual Artsを卒業。グラフィックデザイナーとして活動後、帰国。2010年三重県伊勢市に滞在し、伊勢型紙と出逢う。2011年頃から図案師として学び始め、活動を開始。2013年からは〝職人の手仕事に触れる体感をする〟ワークショップなどの企画運営を開始。2015年多様な伝統染織の職人とともにプロジェクトを立ちあげた。 
    ホームページ http://risakojo.com/

    イベント情報 : 第一回『カタコトの会』展 5/30-6/4
    http://seiwa-net.jp/ap/NList02.dll/?No=NS015823&CL=800&CT=010&ctg=2b

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  • 取材/文:岡本麻佑

    国立千葉大学哲学科卒。在学中からモデルとして活動した後、フリーライターに転身。以来30年、女性誌、一般誌、新聞などで執筆。俳優、タレント、アイドル、ミュージシャン、アーティスト、文化人から政治家まで、幅広いジャンルの人物インタビューを書いてきた。主な寄稿先は『éclat』『marisol』『LEE』『SPUR』『MORE』『大人の休日倶楽部』など。新書、単行本なども執筆。

  • 撮影:萩庭桂太

    1966年東京生まれ。東京写真専門学校卒業後、フリーランス・カメラマンとして活動開始。
    雑誌、広告、CDジャケット、カレンダー、WEB、等幅広いメディアで活動中。
    ポートレート撮影を中心に仕事のジャンルは多岐にわたる。
    「写真家」ではなく「写真屋」、作家ではなく職人であることをポリシーとしている。
    雑誌は週刊文春など週刊誌のグラビア撮影を始め、幅広い世代の女性ファッション誌の表紙を撮影中。
    http://keitahaginiwa.com/