小学校2年生から、ボクシング人生は始まった。元プロボクサーの父親が〝ちょっとやってみるか?〟と聞くので〝やるやる〟と返事したのがきっかけだった。
「朝晩3キロ走って、学校から戻ったら腹筋と背筋、腕立て伏せ。たまにオヤジとミット打ちです。だんだんオヤジがムキになってきて、僕も辞めると言いにくくなって、そのままズルズル6年生まで。でもその後、中学高校とボクシングはやりませんでした」
 17歳のとき、神戸のボクシングジムに所属。ボクシングを再び始めたのは、田舎を出て、都会に出る口実だったという。18歳でプロ・デビューを果たした。
「ボクシング、大嫌いでしたね。子どもの頃から強制的にやらされたから。ボクシングが嫌いでプロボクサーになった選手、僕の他にあまりいないと思います。でもまあだんだん、勝っていくうちに好きになったという感じです。『あ、おもしろいな、もしかして俺、けっこう強いんかも』って自分で思うようになってきて。強いんやったら、どれくらい強いのか、それを知りたいために続けていたようなもんです」
 どれくらい強いのか、試しているうちにどんどん勝っていき、2005年には20戦目で世界初挑戦。当時15度も防衛していた王者ウィラポンと熾烈な闘いを展開し、判定で世界王座を勝ち取った。その頃の長谷川は、徹底的にパンチを避ける戦法で闘っていた。
「僕が子供の頃のチャンピオンで川島郭志さん(第13代WBC世界スーパーフライ級王者・6度防衛)という人がいるんです。自分がプロデビューしてから誰かにビデオを見せてもらって、すごいなと思ったんです。〝アンタッチャブル(触らせない)〟と呼ばれた人で、この人の試合をビデオが擦り切れるほど観て研究しました。僕の原点は、だから川島さんです」
 相手のパンチを避けるコツって、あるんですか?
「まずは反射神経ですね。あとはその、次はこう打ってくるやろうなと思って、ひゅっと先に避ける。最後は、自分がこう打ったら相手はこういうパンチを打ちたくなるやろうというところにいって、あえて打たせて避ける。この3種類ですね」
 囲碁将棋の名人みたい。先の先まで読んで、それを避けてダメージを負わせる。
「試合中、トランクスを引っ張り上げながらでも避けていたから(笑)。そのかわり試合自体はおもしろくない、相手を倒さないからね。でも僕のお客さんは僕がひょいひょい避けるのを観に来ていたから。打って歓声じゃなくて、避けて歓声が沸いていた。僕もおもしろかったですね。避けるのもセンスですから」

  • 出演:長谷川穂積  はせがわ ほづみ

    1980年生まれ。兵庫県西脇市出身。168.5㎝。サウスポー。真正ボクシングジム所属。1999年11月プロデビュー。2005年4月、プロ20戦目の世界初挑戦で王者ウィラポン・ナコンルアンプロモーション(タイ)を倒し、WBC世界バンタム級チャンピオンになる。その後10度の防衛に成功し、世界王座に5年間君臨した。2010年4月王座から陥落したが、同年11月WBC世界フェザー級王座を奪い取る。2016年9月、WBC世界スーパーバンタム級王者となって3階級制覇を達成。同年12月ベルトを返上して現役引退を表明した。
      

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  • 取材/文:岡本麻佑

    国立千葉大学哲学科卒。在学中からモデルとして活動した後、フリーライターに転身。以来30年、女性誌、一般誌、新聞などで執筆。俳優、タレント、アイドル、ミュージシャン、アーティスト、文化人から政治家まで、幅広いジャンルの人物インタビューを書いてきた。主な寄稿先は『éclat』『marisol』『LEE』『SPUR』『MORE』『大人の休日倶楽部』など。新書、単行本なども執筆。

  • 撮影:萩庭桂太

    1966年東京生まれ。東京写真専門学校卒業後、フリーランス・カメラマンとして活動開始。
    雑誌、広告、CDジャケット、カレンダー、WEB、等幅広いメディアで活動中。
    ポートレート撮影を中心に仕事のジャンルは多岐にわたる。
    「写真家」ではなく「写真屋」、作家ではなく職人であることをポリシーとしている。
    雑誌は週刊文春など週刊誌のグラビア撮影を始め、幅広い世代の女性ファッション誌の表紙を撮影中。
    http://keitahaginiwa.com/