16歳のとき、山本千尋は世界ジュニア武術選手権大会に出場。世界85カ国から精鋭が集まる、大きな大会だ。

「特に中国の選手にとって武術は国技のようなものですし、それでお給料をもらっているプロフェッショナルなので、私たちがお稽古事でしていることとは次元が違うと感じました。ハングリー精神というか、絶対優勝する、すべてがかかっているという感覚で出ていたので、アマチュアの私たちもそこは見習わなければと」

　彼女が参加していたのは、武術とはいえ、演舞の部門。相手と闘って勝敗を決めるのではなく、たったひとりで演じ、型の美しさ、力強さを競うものだ。そこでものを言うのは？

「表現力です。気迫です。笑顔は絶対にない。過激な言い方ですけど、気を抜いたら殺される、絶対に相手を倒すという緊張感とか殺気が必要です。そういう気持ちがないと、本当に闘っている演舞にならないんです」

　ふだんはケラケラとよく笑う女の子なのに、武術の現場ではきりっと表情が変わる。刃物みたいに視線が鋭い。その強烈な目ヂカラは、修練の日々が作り上げた武器だ。
　結局山本はその世界大会において、槍術で金メダル、剣術と長拳で銀メダルを獲得した。

「そこで区切りがつきました。優勝をきっかけに取材を受けるようになり、『スタードラフト会議』というテレビ番組にも出て、注目されるようになったんです。自分が評価されるだけじゃなく、自分の好きなスポーツが周りの人に認めてもらえたのが嬉しかったですね。さらにテレビを見た人たちから〝その能力をアクションに生かせば？〟と言われました。もともと華やかな場所が好きだし、チャン・ツィイーみたいなアクション女優に憧れていたので、好きな武術を生かしながら、その道もあるのかな、と」

　競技生活に終止符を打ち、芸能活動を開始。その年、いきなりヒロインで映画デビューすることになるのだが････。