田代万里生はこれからも、チャレンジングな試みを続けるつもり。

「でも、何でも屋になるつもりはありません。軸になる部分は大事にします。僕の軸はクラシックでもあるし、ミュージカルでもある。経験を積み重ねて実力をつけて、自分の中に軸を確立した上で、良い意味で隙を持っていたい。尖った部分は絶対必要だけど、それだけじゃ変われないしつまらないので(笑)」

 撮影で着ていたフランツ・ヨーゼフが着ていたようなヨーロッパの軍服風ジャケットは、この日の撮影のために『エリザベート』大阪公演中に見つけてきたという私服。ウィーンの老舗カフェ、ラントマン(東京支店)で撮影したときは、オーストリアのシェーンブルン宮殿で買ってきたという、フランツ・ヨーゼフの白いミニ胸像をさりげなくテーブルの上に置いていた。地下鉄で移動するときには、重そうな荷物を軽々と自分で運んで、涼しい顔。女子力を発揮したかと思えば凛々しい側面もあって、一緒に居ると何度も〝意外!〟と思わせられる。田代万里生には隠し持っている顔が、まだまだいくつもありそうだ。

「ベートーベンやモーツァルトが今、この現代に生きていたら、間違いなくミュージカルやポップスを作曲していると思います。彼らは当時、古典ではなく最先端の音楽を、今でいうとオリコントップを狙うような感覚で音楽を書いていた人たち。ラップだって書いていたかもしれません。ですから、演奏家も聴衆もクラシック、イコール古典と頑なになるのではなく、進化を畏れない部分も大事にしていけたらなと思います」

 田代万里生もまた、自らの変わらない軸を守りつつ、変わり続ける。星の王子様はまだ、旅の途中なのだ。

  • 出演:田代万里生(たしろ まりお)

    1984年生まれ。ピアノ講師である母のもとで3歳からピアノを学び、7歳よりバイオリン、13歳よりトランペットを始め、15歳からテノール歌手の父より本格的に声楽を学ぶ。東京藝術大学音楽学部声楽科テノール専攻卒業。在学中の2003年東京室内歌劇場公演オペラ『欲望という名の電車』で本格的にオペラ・デビュー。2009年『マルグリット』アルマン役でミュージカル・デビューを果たし、その後も数々の作品に出演。近年の主な出演作品に『エリザベート』『スウィーニー・トッド』『CHESS THE MUSICAL』『スリル・ミー』『ラブ・ネバー・ダイ』など。第39回菊田一夫賞受賞。12月20日『田代万里生 華麗なるクリスマスコンサート2016 with はいだしょうこ』開催予定。

    公演情報

    Clementia(クレメンティア)~相受け入れること、寛容~

    『クレメンティア』は、「音楽×演劇×ダンス」一流アーティストたちが本気で遊ぶ、新感覚ショー!。第3弾となる今回は、田代万里生(テノール、ピアノ)、大貫勇輔(ダンサー)、ホリ・ヒロシ(人形舞)桑山哲也(アコーディオン奏者)、浅野祥(三味線プレーヤー)クリヤ・マコト(ジャズピアニスト)と多彩な才能が集結する。
    2016年12月9日(金)19:00開演 10日(土)14:00時開演/18:00開演 11日(日)13:00開演
    天王洲銀河劇場 http://hpot.jp/stage/clementia

  • 取材/文:岡本麻佑

    国立千葉大学哲学科卒。在学中からモデルとして活動した後、フリーライターに転身。以来30年、女性誌、一般誌、新聞などで執筆。俳優、タレント、アイドル、ミュージシャン、アーティスト、文化人から政治家まで、幅広いジャンルの人物インタビューを書いてきた。主な寄稿先は『éclat』『marisol』『LEE』『SPUR』『MORE』『大人の休日倶楽部』など。新書、単行本なども執筆。

  • 撮影:萩庭桂太

    1966年東京生まれ。東京写真専門学校卒業後、フリーランス・カメラマンとして活動開始。
    雑誌、広告、CDジャケット、カレンダー、WEB、等幅広いメディアで活動中。
    ポートレート撮影を中心に仕事のジャンルは多岐にわたる。
    「写真家」ではなく「写真屋」、作家ではなく職人であることをポリシーとしている。
    雑誌は週刊文春など週刊誌のグラビア撮影を始め、幅広い世代の女性ファッション誌の表紙を撮影中。
    http://keitahaginiwa.com/