# 1 本当の〈居場所〉
オペラとミュージカルのハザマで 田代万里生
- Magazine ID: 3395
- Posted: 2016.10.24
〈居場所〉という言葉が今、気になっている。
会社に居場所がない、学校に居場所がない、家庭に居場所がない、自分の居場所を探している、などなど、近頃よく目にする言葉だから。
じゃあ〈居場所〉ってなに? 自分が認めてもらえる場所、自分が愛される場所、居ることを許される場所、居心地の良い場所、好きな場所、慣れている場所、誰にも邪魔されない場所、それともどこか、こことは違う別の場所?
田代万里生は今年6月28日帝国劇場を皮切りに、日本各地でミュージカル『エリザベート』の舞台に立ち、昨日(10月23日)名古屋中日劇場で大千秋楽を迎えたばかり。エリザベートの夫である皇帝フランツ・ヨーゼフを演じていたのだ。
「東京はWキャストだったんですが地方は僕ひとりだったので、計106公演に出演しました。僕のキャリアの中でも回数的には一番多い役です。フランツはほぼ出ずっぱりで、しかも衣装替えが16~17回あるんです。着替えだけで千何百回、ですね(笑)」
6年前、初めて『エリザベート』に出演したときはフランツ・ヨーゼフの息子、皇太子ルドルフ、つまり 青年の役だったが、今回はその父親役。オーストリア皇帝の22歳から68歳までを演じるには、重厚さと演技力が求められる。
「東宝版ではこれまで自分より一回り上の先輩方が演じてきた役なので、お話をいただいたときには自分がどう演じるのか、想像がつきませんでした。フランツの歌は基本的にキーが低いので、本来テノールの僕には課題が山積みでした。役としても重要で、登場人物たちの中で最もフランツが時代の変化を見せていかないといけない。しかも受け身の芝居が多くて、相手の台詞を受け止めて、リアクションだけでフランツの心情とかドラマとか人生をお客さんに伝える必要があるんです。各年代や場面によって、姿勢や歩き方や歩幅を変えたり、呼吸の深さを変えてみたり。結果、各年代ごとに息遣いやその人物の中に流れているタイム感が変わってきます。僕にとっては新たな課題で、それを今回、昨年の公演に引き続き、より高めていくことが目標でした」
2007年、ヴォーカルグループ『エスコルタ』の一員として初めて田代万里生を見たときは、その天使のような歌声、クラシック界の御曹司というイメージも相まって、まるで星の王子様のように見えた。そんな彼もいつのまにか30代に突入し、もうすっかり大人の男。
今週のYEOは田代自身のリクエストで、帝国劇場、ヤマハ銀座店、今一番気になるというウィーンとブダペストの老舗カフェ(東京支店)などで撮影を重ねた。どこにいても、サマになる。けど、いったいどこが、彼の本当の〈居場所〉なのだろう?
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出演:田代万里生(たしろ まりお)
1984年生まれ。ピアノ講師である母のもとで3歳からピアノを学び、7歳よりバイオリン、13歳よりトランペットを始め、15歳からテノール歌手の父より本格的に声楽を学ぶ。東京藝術大学音楽学部声楽科テノール専攻卒業。在学中の2003年東京室内歌劇場公演オペラ『欲望という名の電車』で本格的にオペラ・デビュー。2009年『マルグリット』アルマン役でミュージカル・デビューを果たし、その後も数々の作品に出演。近年の主な出演作品に『エリザベート』『スウィーニー・トッド』『CHESS THE MUSICAL』『スリル・ミー』『ラブ・ネバー・ダイ』など。第39回菊田一夫賞受賞。12月20日『田代万里生 華麗なるクリスマスコンサート2016 with はいだしょうこ』開催予定。
公演情報
Clementia(クレメンティア)~相受け入れること、寛容~
『クレメンティア』は、「音楽×演劇×ダンス」一流アーティストたちが本気で遊ぶ、新感覚ショー!。第3弾となる今回は、田代万里生(テノール、ピアノ)、大貫勇輔(ダンサー)、ホリ・ヒロシ(人形舞)桑山哲也(アコーディオン奏者)、浅野祥(三味線プレーヤー)クリヤ・マコト(ジャズピアニスト)と多彩な才能が集結する。
2016年12月9日(金)19:00開演 10日(土)14:00時開演/18:00開演 11日(日)13:00開演
天王洲銀河劇場 http://hpot.jp/stage/clementia撮影協力
GERBEUADジェルボー東京本店 http://www.gerbeaud.jp/
取材/文:岡本麻佑
国立千葉大学哲学科卒。在学中からモデルとして活動した後、フリーライターに転身。以来30年、女性誌、一般誌、新聞などで執筆。俳優、タレント、アイドル、ミュージシャン、アーティスト、文化人から政治家まで、幅広いジャンルの人物インタビューを書いてきた。主な寄稿先は『éclat』『marisol』『LEE』『SPUR』『MORE』『大人の休日倶楽部』など。新書、単行本なども執筆。
撮影:萩庭桂太
1966年東京生まれ。東京写真専門学校卒業後、フリーランス・カメラマンとして活動開始。
雑誌、広告、CDジャケット、カレンダー、WEB、等幅広いメディアで活動中。
ポートレート撮影を中心に仕事のジャンルは多岐にわたる。
「写真家」ではなく「写真屋」、作家ではなく職人であることをポリシーとしている。
雑誌は週刊文春など週刊誌のグラビア撮影を始め、幅広い世代の女性ファッション誌の表紙を撮影中。
http://keitahaginiwa.com/