今年2月、田代万里生はひとりで旅に出た。ウィーン、ザルツブルク、バートイシュル、ブダペスト。ミュージカル『エリザベート』の舞台となる街々だ。
 忙しい彼が旅のために確保した余暇は、10日間。あらかじめぎっちりとスケジュールを立てて効率良く、皇后エリザベートや皇帝フランツ・ヨーゼフのいた宮殿、王宮、結婚式を挙げた教会や棺のあるところまで、足を伸ばしたという。その経験は今回の『エリザベート』でフランツ・ヨーゼフを演じる上で、大きな意味を持ったようだ。

「彼が毎日寝ていたベッドを見て、毎日向かっていた机を見て、椅子にも座らせてもらって、棺も見て。別荘に行ってみたら、彼が猟で仕留めた動物たちの剥製がすごい数、飾ってありました。そうするうちに、彼がその頃、何を思い何を感じていたのか、土地やそこの空気を体感した分、フランツをさらに身近に感じることが出来きました」

 しかもこのあたりは昔も今も、クラシック音楽が隆盛を極めた場所だ。

「僕は17歳のときにオペレッタ・デビューをしたんですけど、そのときの作曲家ローベルト・シュトルツを筆頭に、オペレッタやオペラに関わる人や、関連する建物や場所がこの小さなエリアにぎゅっと集結しているんですよ。その当時から1度行ってみたいと思っていたけど、ずっと忙しかった、というのもあるし、ひとりで行く勇気も無かったし(笑)。とにかく今回、ようやく行くことができたんです」

 これらの街の中に音楽をたどる、その道案内をしてくれたのは、なんと皇帝フランツ・ヨーゼフという存在だったとか。

「フランツ・ヨーゼフについて調べていくと、今まで僕が携わってきたクラシックの名作曲家たちに次々とぶち当たるんです。フランツのためにヨハン・シュトラウスが曲を書いていたり、ブダペストの戴冠式ではリストが指揮棒を振っていたり。彼が治めた街でベートーベンやモーツァルトやシューベルトがかつて活躍していたんです。僕の好きなものが全部ここにある! と思いました。オーストリアやハンガリーは僕の音楽のルーツ、故郷という感じです。強い縁を感じる、とても濃い旅でした。」

  • 出演:田代万里生(たしろ まりお)

    1984年生まれ。ピアノ講師である母のもとで3歳からピアノを学び、7歳よりバイオリン、13歳よりトランペットを始め、15歳からテノール歌手の父より本格的に声楽を学ぶ。東京藝術大学音楽学部声楽科テノール専攻卒業。在学中の2003年東京室内歌劇場公演オペラ『欲望という名の電車』で本格的にオペラ・デビュー。2009年『マルグリット』アルマン役でミュージカル・デビューを果たし、その後も数々の作品に出演。近年の主な出演作品に『エリザベート』『スウィーニー・トッド』『CHESS THE MUSICAL』『スリル・ミー』『ラブ・ネバー・ダイ』など。第39回菊田一夫賞受賞。12月20日『田代万里生 華麗なるクリスマスコンサート2016 with はいだしょうこ』開催予定。

    公演情報

    Clementia(クレメンティア)~相受け入れること、寛容~

    『クレメンティア』は、「音楽×演劇×ダンス」一流アーティストたちが本気で遊ぶ、新感覚ショー!。第3弾となる今回は、田代万里生(テノール、ピアノ)、大貫勇輔(ダンサー)、ホリ・ヒロシ(人形舞)桑山哲也(アコーディオン奏者)、浅野祥(三味線プレーヤー)クリヤ・マコト(ジャズピアニスト)と多彩な才能が集結する。
    2016年12月9日(金)19:00開演 10日(土)14:00時開演/18:00開演 11日(日)13:00開演
    天王洲銀河劇場 http://hpot.jp/stage/clementia

    撮影協力

    カフェ ラントマン 青山店 http://www.giraud.co.jp/landtmann/

  • 取材/文:岡本麻佑

    国立千葉大学哲学科卒。在学中からモデルとして活動した後、フリーライターに転身。以来30年、女性誌、一般誌、新聞などで執筆。俳優、タレント、アイドル、ミュージシャン、アーティスト、文化人から政治家まで、幅広いジャンルの人物インタビューを書いてきた。主な寄稿先は『éclat』『marisol』『LEE』『SPUR』『MORE』『大人の休日倶楽部』など。新書、単行本なども執筆。

  • 撮影:萩庭桂太

    1966年東京生まれ。東京写真専門学校卒業後、フリーランス・カメラマンとして活動開始。
    雑誌、広告、CDジャケット、カレンダー、WEB、等幅広いメディアで活動中。
    ポートレート撮影を中心に仕事のジャンルは多岐にわたる。
    「写真家」ではなく「写真屋」、作家ではなく職人であることをポリシーとしている。
    雑誌は週刊文春など週刊誌のグラビア撮影を始め、幅広い世代の女性ファッション誌の表紙を撮影中。
    http://keitahaginiwa.com/