今回、富名監督が釜山国際映画祭に足を運んだのは、同時期に開催される〈Asian Project Market〉略してAPM2015に参加するため。APMは世界中から集まる投資家や製作者に映画の企画をアピールし、共同制作や配給など今後の展開を図ろうというアジア最大級の企画マーケットのひとつ。アジアを中心に世界中から応募された数ある企画から、最終30作品の中に選ばれたのだ。過去にも塚本晋也、河瀬直美、行定勲、熊切和嘉、西川美和など、そうそうたる顔ぶれの日本人監督が数多く参加してきた。

 つまり富名さんの作品『SMOKE ON THE WATER』はACFでファンドを獲得しただけでなくAPMという、強力な出会いの場を与えられたというわけ。

「しかもACFに選ばれた作品を見ると、完成した作品は釜山国際映画祭で上映されているんですよ。これが一番大きいですね。新人で無名の監督としては、みんなに知ってもらうためには映画祭が一番の手段ですから。すごく感謝してるし、なんとかその期待に応えたいというのが正直な気持ちです。作品はまだ出来ていない、これから撮るんですけど、すごい夢心地。これでまたなんとかやっていける、やってみようという気持ちになれました」

  • 富名哲也(とみな てつや)

    北海道釧路生まれ。イギリスに留学。London Film Schoolで映画製作を学ぶ。2013年に製作した短編映画『終点、お化け煙突まえ。』が釜山国際映画祭のコンペ部門に選出されたのを始め、インドネシアの映画祭、セルビアの映画祭などで受賞。現在までスペイン、スイス、コロンビア、米国、中国ほか、世界10カ国以上の国際映画祭に正式招待され、2015年2月ゆうばり国際ファンタスティック映画祭にて上映された。またイタリアのヴェネツィアで開催された現代美術展『未完風景展』でも約5ヶ月にわたり、展示上映された。そして2015年、オリジナル長編脚本「SMOKE ON THE WATER」が、釜山国際映画祭アジア・シネマ・ファンドの脚本開発部門にて日本から初選出されている。

    オフィシャルサイト  http://tetsuyatominafilm.com/

    取材/文:岡本麻佑

    国立千葉大学哲学科卒。在学中からモデルとして活動した後、フリーライターに転身。以来30年、女性誌、一般誌、新聞などで執筆。俳優、タレント、アイドル、ミュージシャン、アーティスト、文化人から政治家まで、幅広いジャンルの人物インタビューを書いてきた。主な寄稿先は『éclat』『marisol』『LEE』『SPUR』『MORE』『大人の休日倶楽部』など。新書、単行本なども執筆。

  • 撮影:萩庭桂太

    1966年東京生まれ。東京写真専門学校卒業後、フリーランス・カメラマンとして活動開始。
    雑誌、広告、CDジャケット、カレンダー、WEB、等幅広いメディアで活動中。
    ポートレート撮影を中心に仕事のジャンルは多岐にわたる。
    「写真家」ではなく「写真屋」、作家ではなく職人であることをポリシーとしている。
    雑誌は週刊文春など週刊誌のグラビア撮影を始め、幅広い世代の女性ファッション誌の表紙を撮影中。
    http://www.haginiwa.com/