熱い拍手が鳴り止まず、東京のリサイタルでは4回もカーテンコールを重ねた。終了後はロビーに、彼女のCDを手にした観客たちの、長い行列ができた。田村さんはひとりひとりと楽しげに話しながら、サインしていく。気さくで元気で気取らない、あねご肌の歌姫だ。そして実は田村さん、一児の母でもある。子育てしながら世界各地で活躍するのは、大変では?

「はい、大変です(笑)。以前は結婚なんて、キャリアの邪魔だと思っていたんですよ。ワイフをサポートしてくれる男性なんて、なかなか見つからないし。でも40歳になる頃、本当にこのまま一生終わって良いのかな、と思ったときに〝NO! 結婚も出産も、一回は試したい〟って。試したらすぐできたので、やっぱりこれも運命だと思ってます。今は歌と家事と子育てと3本柱ですけど、我ながらパワフルだな、と(笑)」

 妻となり、母となった経験は、歌にもプラスに作用するはず。

「みんなそうおっしゃってくださいますけど、どうでしょう? 子育てのために、確実に時間は取られていますし、諦めていることもたくさんあるんです。でも、自分が全然知らなかった世界にぴゅーっと連れて行かれた感覚は確かにあって。こんな世界があったんだなって、毎日、発見中です」

 ダイヤモンドの原石は、いつのまにか磨きに磨き抜かれて今、キラキラと輝いている。

  • 出演:田村麻子(たむら あさこ)

    京都府出身。国立音楽大学声楽科、東京藝術大学大学院修士課程修了。ニューヨーク・マネス音楽院首席卒業。1997年ドミンゴ国際オペラ・コンクールに最年少で入賞したのを始め、世界の主要コンクールで上位入賞を果たす。世界各地でオペラに出演。日本国内でも8月末からリサイタルツアーを行っている。

    オフィシャルサイト http://www.asakotamura.com/japanese.html

    コンサート情報

    11月3日ワシントン スミソニアン博物館/12月23日 第九演奏会 東京文化会館(東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団)

    CD情報

    『Jewels Of Ave Maria』古今さまざまな16名の作曲家によるアヴェ・マリア集。
    『ノスタルジア-日本の歌-』抒情歌から唱歌、童謡、村井邦彦作品まで。
    上記2枚はナクソス・ジャパンよりリリース。ともにANA国際線オーディオプログラム「ANA SKY CHANNEL」に2ヶ月間搭載されている。

  • 取材/文:岡本麻佑

    国立千葉大学哲学科卒。在学中からモデルとして活動した後、フリーライターに転身。以来30年、女性誌、一般誌、新聞などで執筆。俳優、タレント、アイドル、ミュージシャン、アーティスト、文化人から政治家まで、幅広いジャンルの人物インタビューを書いてきた。主な寄稿先は『éclat』『marisol』『LEE』『SPUR』『MORE』『大人の休日倶楽部』など。新書、単行本なども執筆。

  • 撮影:萩庭桂太

    1966年東京生まれ。東京写真専門学校卒業後、フリーランス・カメラマンとして活動開始。
    雑誌、広告、CDジャケット、カレンダー、WEB、等幅広いメディアで活動中。
    ポートレート撮影を中心に仕事のジャンルは多岐にわたる。
    「写真家」ではなく「写真屋」、作家ではなく職人であることをポリシーとしている。
    雑誌は週刊文春など週刊誌のグラビア撮影を始め、幅広い世代の女性ファッション誌の表紙を撮影中。
    http://www.haginiwa.com/