今年4月、田村さんは大リーグのナショナルズ対ヤンキースのオープン戦の試合前に、アメリカ国歌を斉唱した。『全米桜祭り』のスポーツイベントの一環として、赤い振り袖姿でのパフォーマンスは、大観衆に大受けだった。

「私の夫はアメリカ人、元海兵隊員で愛国精神がすごくある人なんです。以前から『星条旗』という国歌が生まれた時のエピソードや、アメリカ国旗にはアメリカ人の魂がこもっていると聞かされていました。それでいざ当日、快晴の空の下、7万人くらいの観衆の前で歌っていたら、どんどんアメリカ人と化していく自分がいるんですよ。歌い上げるときにはすっかりアメリカ人になった気分。で、歌い終わったあと、はっと気が付いたら、なんだ私、外国人だったって思い出して(笑)」

 そういえばオペラ歌手として、日本人であることが足かせになっていた時期もあった田村さん。今の彼女にとって日本人であるということは?

「ラッキーだったと思っています。私はたまたま日本に生まれながらオペラに惹かれ、しかもそれを極めたいと思い、それをやっているときが一番幸せだと思っている。ジレンマですけど、でも、日本人に生まれた私にしかできないことがあると思うんです。すべて起こったことには意味があると思うので、日本人で良かったと思うし、私が日本人に生まれてオペラをやっている意味は何なのか、探し続けていきたいと思っています」

  • 出演:田村麻子(たむら あさこ)

    京都府出身。国立音楽大学声楽科、東京藝術大学大学院修士課程修了。ニューヨーク・マネス音楽院首席卒業。1997年ドミンゴ国際オペラ・コンクールに最年少で入賞したのを始め、世界の主要コンクールで上位入賞を果たす。世界各地でオペラに出演。日本国内でも8月末からリサイタルツアーを行っている。

    オフィシャルサイト http://www.asakotamura.com/japanese.html

    コンサート情報

    11月3日ワシントン スミソニアン博物館/12月23日 第九演奏会 東京文化会館(東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団)

    CD情報

    『Jewels Of Ave Maria』古今さまざまな16名の作曲家によるアヴェ・マリア集。
    『ノスタルジア-日本の歌-』抒情歌から唱歌、童謡、村井邦彦作品まで。
    上記2枚はナクソス・ジャパンよりリリース。ともにANA国際線オーディオプログラム「ANA SKY CHANNEL」に2ヶ月間搭載されている。

  • 取材/文:岡本麻佑

    国立千葉大学哲学科卒。在学中からモデルとして活動した後、フリーライターに転身。以来30年、女性誌、一般誌、新聞などで執筆。俳優、タレント、アイドル、ミュージシャン、アーティスト、文化人から政治家まで、幅広いジャンルの人物インタビューを書いてきた。主な寄稿先は『éclat』『marisol』『LEE』『SPUR』『MORE』『大人の休日倶楽部』など。新書、単行本なども執筆。

  • 撮影:萩庭桂太

    1966年東京生まれ。東京写真専門学校卒業後、フリーランス・カメラマンとして活動開始。
    雑誌、広告、CDジャケット、カレンダー、WEB、等幅広いメディアで活動中。
    ポートレート撮影を中心に仕事のジャンルは多岐にわたる。
    「写真家」ではなく「写真屋」、作家ではなく職人であることをポリシーとしている。
    雑誌は週刊文春など週刊誌のグラビア撮影を始め、幅広い世代の女性ファッション誌の表紙を撮影中。
    http://www.haginiwa.com/