ソプラノ歌手というより〝歌女優〟と言ったほうが、彼女の魅力は伝わると思う。9月5日(土)東京・よみうり大手町ホールで開かれたリサイタルで、田村さんは歌う曲ごとにそのヒロインと化し、ドラマを演じていた。芝居をするように歌い、哀しみや絶望、怒りや恋情を表現する。英語やドイツ語、イタリア語の歌詞はわからなくても、込められた感情は声と一緒に耳から身体に流れ込んでくる。

「もちろん、楽譜通りに歌っているんですよ。それはクラシック歌手の基本ですから。でもその上で、歌詞をどう表現するかが大事なんです。一語一語、一句一句、作曲家や作詞家がその作品に込めた想いを咀嚼して消化して、自分の血肉にしてから表現するべきだと思うんです」

 田村さんは日本の大学で声楽を学んだ後、ニューヨークへ留学。声楽家としてレパートリーの多いイタリア語、フランス語、ドイツ語を徹底的に勉強した。さらにロシア語、チェコ語、ノルウェー語、タガログ語なども必要に応じて。

「例えばスペインの歌曲だったら、スペイン人のお客様が聞いても何の違和感もなく、その情景を思い浮かべることができるように。意味だけではなく、言葉の持つ生理的感覚まで伝えられるように。正しい発音を知りたくて、その国の大使館まで押しかけたこともあります(笑)。ベトナムで公演したときは、ベトナム語でも歌いました。そうすることでお客様が私を身近に感じて下さるでしょ?」

 ホームグランドはニューヨーク。グローバルに活躍するオペラ歌手・田村麻子はどんなプロセスを経て誕生したのか。明日からの記事をお楽しみに!

  • 出演:田村麻子(たむら あさこ)

    京都府出身。国立音楽大学声楽科、東京藝術大学大学院修士課程修了。ニューヨーク・マネス音楽院首席卒業。1997年ドミンゴ国際オペラ・コンクールに最年少で入賞したのを始め、世界の主要コンクールで上位入賞を果たす。世界各地でオペラに出演。日本国内でも8月末からリサイタルツアーを行っている。

    オフィシャルサイト http://www.asakotamura.com/japanese.html

    コンサート情報

    11月3日ワシントン スミソニアン博物館/12月23日 第九演奏会 東京文化会館(東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団)

    CD情報

    『Jewels Of Ave Maria』古今さまざまな16名の作曲家によるアヴェ・マリア集。
    『ノスタルジア-日本の歌-』抒情歌から唱歌、童謡、村井邦彦作品まで。
    上記2枚はナクソス・ジャパンよりリリース。ともにANA国際線オーディオプログラム「ANA SKY CHANNEL」に2ヶ月間搭載されている。

  • 取材/文:岡本麻佑

    国立千葉大学哲学科卒。在学中からモデルとして活動した後、フリーライターに転身。以来30年、女性誌、一般誌、新聞などで執筆。俳優、タレント、アイドル、ミュージシャン、アーティスト、文化人から政治家まで、幅広いジャンルの人物インタビューを書いてきた。主な寄稿先は『éclat』『marisol』『LEE』『SPUR』『MORE』『大人の休日倶楽部』など。新書、単行本なども執筆。

  • 撮影:萩庭桂太

    1966年東京生まれ。東京写真専門学校卒業後、フリーランス・カメラマンとして活動開始。
    雑誌、広告、CDジャケット、カレンダー、WEB、等幅広いメディアで活動中。
    ポートレート撮影を中心に仕事のジャンルは多岐にわたる。
    「写真家」ではなく「写真屋」、作家ではなく職人であることをポリシーとしている。
    雑誌は週刊文春など週刊誌のグラビア撮影を始め、幅広い世代の女性ファッション誌の表紙を撮影中。
    http://www.haginiwa.com/