日本人がオペラ歌手として世界に認められるのは、すごーく大変。でも田村さんは諦めなかった。

「東洋人でも可能性がゼロではない、と思ったんです。例えば、完璧なイタリア語を話してすごいカリスマ性があってすごくキレイで歌が上手ければ、演技力があって華があれば、話は別でしょ? 全部パッケージとして完璧になろうと、それはそれは努力しました」

 2002年『3大テノール・コンサート』でドミンゴ、故パヴァロッティ、カレーラスと共演したのは、ちょうどそんな、悪戦苦闘を重ねていた頃のこと。

「ドミンゴさんが私のこと覚えていて、推薦してくれたんです。頑張っているから、神様がご褒美をくれたんだなって思いました。横浜アリーナで、3万人か4万人の観衆が熱狂してくれて、本当に嬉しくて、生きてて良かった、と」

 その5年後には、NYのリンカーンセンターでデビュー。急遽人気オペラ歌手アプリーレ・ミッロの代役を務め、ニューヨーク・タイムズ紙で大絶賛された。

 ひとつひとつ着実に、大舞台をクリアしてきたのだ。

「〝オペラ歌手に一番必要な才能は?〟と尋ねられて私の答えは〝アイアンハート〟(笑)。私、本当はビビリ屋なんですよ。よく言えば、繊細、感受性豊かとも言えると自分で慰めていましたが、弱い自分が本当に嫌でした。緊張するし打たれ弱いし。でもオペラ歌手を続けるためには、どんなにドキドキバタバタするようなことがあっても、ノープロブレムって。どんなにイヤなこと言われたりイヤなことがあっても、何も気にしてないような顔をして歌わないと。闘っていかないと、ダメなんです」

  • 出演:田村麻子(たむら あさこ)

    京都府出身。国立音楽大学声楽科、東京藝術大学大学院修士課程修了。ニューヨーク・マネス音楽院首席卒業。1997年ドミンゴ国際オペラ・コンクールに最年少で入賞したのを始め、世界の主要コンクールで上位入賞を果たす。世界各地でオペラに出演。日本国内でも8月末からリサイタルツアーを行っている。

    オフィシャルサイト http://www.asakotamura.com/japanese.html

    コンサート情報

    11月3日ワシントン スミソニアン博物館/12月23日 第九演奏会 東京文化会館(東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団)

    CD情報

    『Jewels Of Ave Maria』古今さまざまな16名の作曲家によるアヴェ・マリア集。
    『ノスタルジア-日本の歌-』抒情歌から唱歌、童謡、村井邦彦作品まで。
    上記2枚はナクソス・ジャパンよりリリース。ともにANA国際線オーディオプログラム「ANA SKY CHANNEL」に2ヶ月間搭載されている。

  • 取材/文:岡本麻佑

    国立千葉大学哲学科卒。在学中からモデルとして活動した後、フリーライターに転身。以来30年、女性誌、一般誌、新聞などで執筆。俳優、タレント、アイドル、ミュージシャン、アーティスト、文化人から政治家まで、幅広いジャンルの人物インタビューを書いてきた。主な寄稿先は『éclat』『marisol』『LEE』『SPUR』『MORE』『大人の休日倶楽部』など。新書、単行本なども執筆。

  • 撮影:萩庭桂太

    1966年東京生まれ。東京写真専門学校卒業後、フリーランス・カメラマンとして活動開始。
    雑誌、広告、CDジャケット、カレンダー、WEB、等幅広いメディアで活動中。
    ポートレート撮影を中心に仕事のジャンルは多岐にわたる。
    「写真家」ではなく「写真屋」、作家ではなく職人であることをポリシーとしている。
    雑誌は週刊文春など週刊誌のグラビア撮影を始め、幅広い世代の女性ファッション誌の表紙を撮影中。
    http://www.haginiwa.com/