ニューヨークでブラッドショー氏からレッスンを受けるようになった西川さんが、一番多く投げかけられた言葉は〝LET IT GO!〟。『アナ雪』では〝ありの~ままの~♪〟って訳していたけど、西川さんには〝自分を解き放て!〟と聞こえたという。

「とにかく個性を出しなさいと言われました。僕、日本では個性が強すぎると言われていたんですけどね(笑)」

 3ヶ月、みっちりレッスンを重ねて、最後にふたりの先生から、大きなサプライズをもらった。リンカーンセンターのアリスタリーホールでのリサイタルだ。

「うちの母親に報告したら〝え! 臨海スポーツセンターでピアノ弾くの?〟って(笑)。僕、堺市の出身で、ウチの近所に臨海工業地帯があるんです。でもそのくらい、ありえない話だったんですよね。僕は日本に帰れば和菓子屋の店員なんですから」

 その演奏会の成功をきっかけに、あのカーネギーホールでも定期的に演奏会を開くことに。間もなく日本を引き払い、ニューヨークを本拠地に、さまざまな演奏活動をすることになった。アルゲリッチやキーシンなど、超一流アーティストたちとの交流も始まった。人生がキラキラと輝きだした頃、またもや人生が大きく動く。手の指が、動かなくなったのだ。

  • 出演:西川悟平(にしかわごへい)

    1974年、大阪府堺市生まれ。JHCFoundation,Incグリニッチ国際音楽院ディレクター。米日財団会員。15歳からピアノを始め、3年後にニューフィルハーモニー管弦楽団とピアノコンチェルトを共演。99年、巨匠、故ディヴィッド・ブラッドショー氏とコズモ・ブオーノ氏に認められ、ニューヨークに招待される。同年、リンカーンセンター・アリスタリーホールにてニューヨークデビュー。翌年より定期的にカーネギーホールにて演奏。01年、両手の演奏機能を完全に失い、ジストニアと診断された。リハビリにより右手の機能と左手の指2本を回復させ、現在に至る。著書に『7本指のピアニスト』(朝日新聞出版)。

    オフィシャルブログ http://goheinishikawa.blogspot.jp/

  • 取材/文:岡本麻佑

    国立千葉大学哲学科卒。在学中からモデルとして活動した後、フリーライターに転身。以来30年、女性誌、一般誌、新聞などで執筆。俳優、タレント、アイドル、ミュージシャン、アーティスト、文化人から政治家まで、幅広いジャンルの人物インタビューを書いてきた。主な寄稿先は『BAILA』『éclat』『marisol』『LEE』『SPUR』『MORE』『大人の休日倶楽部』など。新書、単行本なども執筆。

  • 撮影:萩庭桂太

    1966年東京生まれ。東京写真専門学校卒業後、フリーランス・カメラマンとして活動開始。
    雑誌、広告、CDジャケット、カレンダー、WEB、等幅広いメディアで活動中。
    ポートレート撮影を中心に仕事のジャンルは多岐にわたる。
    「写真家」ではなく「写真屋」、作家ではなく職人であることをポリシーとしている。
    雑誌は週刊文春など週刊誌のグラビア撮影を始め、幅広い世代の女性ファッション誌の表紙を撮影中。
    http://www.haginiwa.com/