結婚生活はしかし、あっという間に破綻した。

「あれ? 人間性が全然違うねってことにすぐに気が付いて。精神的に不安定になりました。彼は売れないミュージシャンだったので、マディソンでも夫婦でゴミ漁りです。週7日、働き蜂のようにバイトして、でも離婚話が出て、あの頃が私、最高にヤバかった。せっかく大学出て、留学もして、前途洋々のはずだったのに〝私、何やってるんだろう?〟って、そこで気が付いたんですね」

 ある日、バイトで子ども美術館の受付をしていると、ひとりの子どもが日本のマンガを見せてくれた。付設の図書館には日本のマンガがずらっと並び、ブームになっていたのだ。それを見てミサコさんは、決めた。〝これだ。やるしかない〟と。

「マンガなんて描いたことなかったけど、アメリカには作者の半生をドラマチックにコミックにするグラフィック・ノベルというジャンルがあって、これなら描けると思ったんです。日本人の私はこれまで面白い人生を送ってきたし、いろんな人種のいるアメリカの子ども達にはウケるはず。それに、このタイミングで自分の人生をきっちり振り返ることが、これからの私の人生を作ってくれるんじゃないかって、そんな直感もありました」

 早速作品のレジュメを作り、出版社に連絡して担当者に見てもらったが、もちろん最初の返事は〝NO!〟。

「ここで引き下がるわけにいかないと思って、何がいけないの? どこは良いの? どうすればいいの?って全部教えてもらって、直してからまた3ヶ月後、6ヶ月後に見てもらう。その繰り返しでした。はい、努力と情熱、です。〝このままじゃ終われない〟というプライドもあったし、失うモノはないから、怖くない。少しずつ、こんなに熱心なヤツはそういない、と気に入ってくれる人が出てきて2年後に、2冊同時にディスニー系列の出版社から出版が決まりました」

 人生大逆転。見事なサクセス・ストーリーだ。

「でも、これで終わり、じゃないんです。アメリカでは何冊出そうが、次の作品を出すためには、また一からプレゼンしていかなきゃならない。生き抜くために、今も必死です。たぶん私はずっと死ぬまで、勉強しながら闘っていく人間なんです」

  • 出演:ミサコ・ロックス

    法政大学在学中に奨学金派遣留学で渡米。卒業後、人形師を目指しNYに渡ったが、挫折。ホームレス、中学の美術講師など迷走期間を経て、全米でマンガ家デビューを果たした。NYタイムス、NHKドキュメンタリー、BBCドキュメンタリーなどで紹介されたことも。日本ではコミックエッセイ『もうガイジンにしました』自己啓発書『理由とか目的とか何だっていいじゃん! チャレンジしなくちゃ後悔もできない』(ディスカバー21)を出版。

    オフィシャル・ブログ
    http://www.misakorocks.com

    HAIR&MAKEUP : 小椋ケンイチ

    オフィシャル・ブログ
    http://ameblo.jp/ogune/

    STYLIST : 淵上優樹

    衣装/すべてスタイリスト私物

  • 取材/文:岡本麻佑

    国立千葉大学哲学科卒。在学中からモデルとして活動した後、フリーライターに転身。以来30年、女性誌、一般誌、新聞などで執筆。俳優、タレント、アイドル、ミュージシャン、アーティスト、文化人から政治家まで、幅広いジャンルの人物インタビューを書いてきた。主な寄稿先は『BAILA』『éclat』『marisol』『LEE』『SPUR』『MORE』『大人の休日倶楽部』など。新書、単行本なども執筆。

  • 撮影:萩庭桂太

    1966年東京生まれ。東京写真専門学校卒業後、フリーランス・カメラマンとして活動開始。
    雑誌、広告、CDジャケット、カレンダー、WEB、等幅広いメディアで活動中。
    ポートレート撮影を中心に仕事のジャンルは多岐にわたる。
    「写真家」ではなく「写真屋」、作家ではなく職人であることをポリシーとしている。
    雑誌は週刊文春など週刊誌のグラビア撮影を始め、幅広い世代の女性ファッション誌の表紙を撮影中。
    http://www.haginiwa.com/