今、セーンジャーさんが演奏する馬頭琴は、木材で出来ている。ボディには繊細な模様がほどこされ、2本の弦はよく見ると細い糸が縒りあわされていた。

「西洋音楽で使うチェロやバイオリンの弦は4本ですが、馬頭琴は太い弦には170本、細い方には130本の糸が使われています。マルコポーロの記述にも馬頭琴は出てきますから、1000年以上の歴史があるんですよ!」

 なるほど、メロウなメロディはとことん叙情的に、力強い旋律は激情たぎるかのように弾けるのは、多くの糸とそれを弾きこなす演奏力に秘密があるのかもしれない。

「でも僕が生まれた家にあった馬頭琴は、本当に馬の皮と骨で作られていました。弦は馬の尻尾の毛です。今の楽器と比べるとボロボロでしたし、音程も取るのが難しかったけれど、あの昔ながらの馬頭琴が、僕の原体験になっていると思います」

 そして馬頭琴というその名の通り、昔も今も、楽器の先端には馬の頭の彫刻が飾られている。

「モンゴルでは、馬は家族のようなものなんです。5歳になると自分の馬をあてがわれて、自分で世話をします。小学校には馬に乗って通いました。勉強している間、馬は外で草を食べていて、帰る頃まで待っていてくれるんです。夜道が暗くても、馬が道を覚えているから連れて帰ってくれる。そうやって四六時中、共に生きている家族のような存在だから、愛する馬が死んでしまうと、とても哀しい。そんな想いがこの馬頭琴という楽器に込められているのだと思います」

『駿馬の如く』

2015年3月6日発売
発売元 : ACOGARE,Inc.
仕様 / 品番 / 価格
ACG-001 / ¥1,852+消費税
http://www.senjiya.net

  • 出演:セーンジャー 賽音吉雅

    内モンゴル出身。内モンゴル芸術学院卒業後来日。大東文化大学大学院修了。2005年『スーホと白い馬』映画出演、音楽監督を自ら行い、文部科学省選定作品に選定される。2007年映画『蒼き狼 地果て海尽きるまで』において馬頭琴を担当、モンゴルロケに参加。2008年北京オリンピック、ギネス世界記録イベントにおいて馬頭琴を演奏。2012年NHK『エル・ムンド』『ほっとアジア』に出演。2013年内モンゴル国際文化交流宣伝大使に任命

  • 取材/文:岡本麻佑

  • 撮影:萩庭桂太

    1966年東京生まれ。東京写真専門学校卒業後、フリーランス・カメラマンとして活動開始。
    雑誌、広告、CDジャケット、カレンダー、WEB、等幅広いメディアで活動中。
    ポートレート撮影を中心に仕事のジャンルは多岐にわたる。
    「写真家」ではなく「写真屋」、作家ではなく職人であることをポリシーとしている。
    雑誌は週刊文春など週刊誌のグラビア撮影を始め、幅広い世代の女性ファッション誌の表紙を撮影中。
    http://www.haginiwa.com/