小説『最後の命』は、芥川賞作家中村文則氏のミステリー。アメリカのデヴィッド・グディス賞を日本人で初めて受賞した中村氏が20代の最後に書いた作品です。ちなみにデヴィッド・グディス賞とは、ノワール小説の分野に貢献した作家に2年に一度贈られるアメリカの文学賞。つまり、「暗い」ことは大前提なんですね。

 桂人と冴木、そして二人の幼なじみの香里(比留川游さん)。3人の若者を中心に映画のストーリーは進行します。主演は柳楽優弥さんですが、矢野聖人さんが演じた冴木はストーリーの根幹となる役どころ。ノワールの闇の一端を担う冴木という人物ですが、ご自分と重なるところはありましたか?

「自分が苦しんでいるのに人には話さない、自分が助けて欲しいのに人を助けに行こうとするところ、とか。本当は弱くて脆いのに、それを凌駕する言動をするところは、似ている部分がある気がします」

 人に話さないといえば、矢野さんは人見知りだと聞きました。そして、最近ではそれを克服しようとしているとか?

「そうですね、昔から僕は人見知りで。中学や高校の時から、3人とか5人とか、限られた人数と仲良くなる方で、顔が広くて友達が多いという感じではありませんでした。だけど人見知りばかりだとコミュニケーションを取れない人間になってしまうので(笑)、最近は自分から話しかけるように努力しています」

 主役の柳楽優弥さんは現在24歳、矢野さんは22歳。主演作の多い、同世代の役者と同じ土俵で演技した感想は?

「オーディションで役が決まったときにはすごく緊張しました。僕よりもずっと役者のキャリアが長い人なので。ただ、尊敬するだけではなく、負けちゃいけないとも思って。二人の関係性を表現するためにコミュニケーションを取りつつ、二人で切磋琢磨したつもりです。それでも撮影中には折々に、柳楽優弥っていう役者として、存在として、すごいなと思い知らされる部分はありました」

 『最後の命』は共演者も20代、松本准平監督も現在29歳という同世代が多い現場でした。コミュニケーションも取りやすかったのでは?

「今までの現場では自分が一番年下ということが多かったので、今回はよかったですね。とはいっても、これ以上人数が多かったらここまで仲良くなれていなかった気がします」

 そう。これまでに数々の大人たちのなかで役者としての経験を培ってきた矢野さん。「誰も知らない」どころか、舞台、映画、テレビドラマで活躍しています。前回のYEOに登場してから約2年の間に、どのような仕事をしてきたのでしょうか。

  • 出演:矢野聖人

    1991年東京都生まれ。蜷川幸雄演出の舞台『身毒丸』のオーディションで8523人の応募者のなかから選ばれ、デビュー。その後、2011年『身毒丸』を好演。その他ドラマ『GOLD』『リーガルハイ』『GTO』、映画『天国からのエール』、『サクラサク』、舞台『ヘンリー四世』『ロミオとジュリエット』に出演。今後は『リーガルハイSP』(11月22日21:00~CX)、映画『でーれーガールズ』(2015年2月公開)に出演。現在、 映画『ふしぎな岬の物語』『最後の命』(松本准平監督・中村文則原作)が公開中。

  • 取材 / 文:加藤いづみ

    コピーライター。東京都出身。成城大学文芸学部卒。広告、SP、WEBのコピーライティング、企画のほか、1996年より某企業のPR冊子(月刊)制作を継続して手がけている。
    https://www.facebook.com/mi.company

  • 撮影:萩庭桂太

    1966年東京生まれ。東京写真専門学校卒業後、フリーランス・カメラマンとして活動開始。
    雑誌、広告、CDジャケット、カレンダー、WEB、等幅広いメディアで活動中。
    ポートレート撮影を中心に仕事のジャンルは多岐にわたる。
    「写真家」ではなく「写真屋」、作家ではなく職人であることをポリシーとしている。
    雑誌は週刊文春など週刊誌のグラビア撮影を始め、幅広い世代の女性ファッション誌の表紙を撮影中。
    http://www.haginiwa.com/