#1 彼の中にいる天使と悪魔
矢野聖人
- Magazine ID: 1841
- Posted: 2014.11.17
インタビューに先駆けた撮影のロケ現場に出向くと、JR新橋駅前の雑踏に似合わない矢野聖人さんがいました。これまで茶色く長めだった髪を切ったばかりという黒髪は、過去の映像や画像と大きくイメージが異なるのですが、初めて会うせいか、あるいはよく似合っているせいか、違和感はありません。
撮影が始まり、萩庭カメラマンの指示に従って交差点で、路地裏で、道端で、被写体となる矢野さん。俯きがちな姿、寡黙で物静かな雰囲気でした。
数日後、映画『最後の命』の初日舞台挨拶が行なわれるという劇場に足を運ぶことに。『最後の命』のなかで矢野さんが演じた冴木は、柳楽優弥さん演じる主役・桂人(けいと)の幼なじみ。二人が高校卒業後、7年ぶりに再会した時点からストーリーが展開します。
___小学生のときに目撃した事件のトラウマを抱える二人。桂人は人に触れられることを嫌う内向的な青年になり、一方の冴木は華やかな風貌とは裏腹にどこか正体不明の闇がつきまとう。二人が再会した直後に桂人の部屋で顔見知りの女性が殺され、物語は一気に加速する……。
『最後の命』は終始重苦しい雰囲気が漂い続けます。矢野さん曰く「ひとことで言えば暗い映画」。原作の小説では心理描写が延々と続き、しかも不規則な時系列で綴られているため、映像化は不可能だと考えられていたそうです。
重い事件の記憶を抱え続けている二人の青年の姿から、生乾きの傷のようなヒリヒリする心の痛みが伝わってくる、かなり救いのない話。映画のなかで矢野さんは、高校生から25歳を演じているのですが、制服姿が似合う! いるいる、こういう可愛い顔をして何を考えているのかわからない感じの高校生……と、本筋と関係ない部分でちょっと盛り上がりました(心の中で)。
さて、上映後に舞台に立った矢野さんは、先日とは打って変わって華やかな雰囲気を身にまとっていました。ダウンスタイルだった髪を立て、スーツをまとって、明朗にインタビューに答える様子は、間近に見た寡黙な青年とは別人のようでした。
「この映画は、若い人に見てほしい。自分と同じ20代とか、10代の人に」
壇上でそう語った矢野さんの言葉に、大きく頷きました。彼らと同年代だけが共有できる痛みや、喜び。それは映画を観て、確かに伝わってきたから。今や自分は傍観者になるしかないなあ……と少し寂しく思ったりして。
撮影時に、映画の中で、そして壇上で、それぞれ違う姿を見せてくれた矢野聖人さん。その正体は、天使か悪魔か。新しいチャレンジを果たしたという映画『最後の命』の話を中心に、役者・矢野聖人に迫っていきたいと思います。
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出演:矢野聖人
1991年東京都生まれ。蜷川幸雄演出の舞台『身毒丸』のオーディションで8523人の応募者のなかから選ばれ、デビュー。その後、2011年『身毒丸』を好演。その他ドラマ『GOLD』『リーガルハイ』『GTO』、映画『天国からのエール』、『サクラサク』、舞台『ヘンリー四世』『ロミオとジュリエット』に出演。今後は『リーガルハイSP』(11月22日21:00~CX)、映画『でーれーガールズ』(2015年2月公開)に出演。現在、 映画『ふしぎな岬の物語』『最後の命』(松本准平監督・中村文則原作)が公開中。
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取材 / 文:加藤いづみ
コピーライター。東京都出身。成城大学文芸学部卒。広告、SP、WEBのコピーライティング、企画のほか、1996年より某企業のPR冊子(月刊)制作を継続して手がけている。
https://www.facebook.com/mi.company -
撮影:萩庭桂太
1966年東京生まれ。東京写真専門学校卒業後、フリーランス・カメラマンとして活動開始。
雑誌、広告、CDジャケット、カレンダー、WEB、等幅広いメディアで活動中。
ポートレート撮影を中心に仕事のジャンルは多岐にわたる。
「写真家」ではなく「写真屋」、作家ではなく職人であることをポリシーとしている。
雑誌は週刊文春など週刊誌のグラビア撮影を始め、幅広い世代の女性ファッション誌の表紙を撮影中。
http://www.haginiwa.com/