『スリル・ミー』初挑戦、今までに無い「彼」を演じてくれそう、と期待の集る伊礼彼方さんと、初演当時から凛々しく、清潔感あふれる「私」役を演じてきた田代万里生さん。このふたりが演じる舞台は、他のペアとはまたひと味違うものになりそうだ。

田代 まだ3~4回しか稽古をしていないんですが、すごく濃密なものになってます。

伊礼 今のところの解釈だと「彼」は、本質は弱い人間だと思うんですよ。高知能で、頭でずっと考えている。動きに抑揚がないので、表現が難しいですね。しかもこの場面ではこう動く、と決められているから、その度に俺は〝なんで?〟って(笑)。

田代 伊礼さんて、知ったかぶりするような人じゃないし、納得しないとやらない人だから、いちいち、ちゃんと質問してくれるんです。

伊礼 それ、子どもってことじゃん(笑)

田代 いやいや、だから僕たちもいろいろ、自主的に調べてみたりして。これは実際にあった事件をベースにしていますから、原作の英語版には「彼」と「私」の名前も、事件の詳細な記録も出てきます。日本版と韓国版はそれを抽象化することによってお客さんのイマジネーションをかきたてているんですけど、僕らは実際に起ったことを知った上で、台本に書かれていない部分について、ふたりの共通認識としての話し合いをたくさんしているので、止まらないくらい、ずうっと話し込んでいます。僕も今回4回目にして初めて知ったことがたくさんあったので、かなり新鮮ですね。

伊礼 1度、万里生クンで『スリル・ミー』を見ていて、そこで惚れたんです。彼は本当に歌がうまいのに、台詞を観客に伝えるために、歌を放棄しているように感じたんですよ。絶対音感を持つ人間が芝居のためとはいえ、良い意味でなんですけど、歌を放棄するって、かなり覚悟のいることだし苦痛だろうし、苦労もしたはず。それを見て、うわっ、素敵だなって。彼とならやれるなって(笑)。

田代 そこから今回の『スリル・ミー』が始まっているんですね(笑)。

伊礼 そもそも最初に万里生クンと会ったのは、『エリザベート』のルドルフ役をWキャストでやったときなんだよね。

田代 4年前ですね、一緒に稽古しましたよね。

伊礼 第一印象はこんなに歌が滑らかで上手いのに、なんて体がかたいんだ!って、驚いた。

田代 だ・か・ら、僕はあの舞台が3作目だったんですってば! ミュージカルなんてどうやっていいかわからない時期で、ダンスも生まれて初めてだった。

伊礼 俺もあの舞台で、いろいろ発見しました。歌も面白いけど、お芝居って面白いなって。ミュージカルで朗々と歌い上げる曲よりも言葉を、台詞を伝えようとしている歌に感動した。もちろん作品によっては朗々と歌わないと伝わらないミュージカルもあるから、それも醍醐味だけど。この『スリル・ミー』は歌の中にも、聞き逃しちゃいけない言葉がたくさんあるからね。

田代 いわゆるミュージカルだと、音圧で圧倒したり、舞台の派手さでお客さんをのけぞらせることも多いけど、『スリル・ミー』の場合はお客さんが覗き込みたくなる、耳を澄ませたくなる舞台だと思うんです。僕も2年ぶりなので、去年上演されているときに他の人達の舞台を観ながら〝次、もしやれるとしたら、ここはこうしたい!〟とか、あたためていたものもいっぱいあります。ようやくそれが今回やれることになったので、是非、劇場に来て見ていただきたいと思います。

  • 出演

    田代万里生

    1984年生まれ。テノール歌手としてクラシックの世界で活躍する一方、2009年からミュージカル、ポップ歌手、そして俳優として活躍の場を広げている。

    伊礼彼方

    1982年生まれ。バンド活動をきっかけに舞台と出会い、その後ミュージカルやストレートプレイと、ジャンル、役柄を問わず幅広く活躍中。

    ミュージカル『スリル・ミー』

    11月7日(金)~24日(月・祝)天王洲 銀河劇場
    ホリプロチケットセンター 03-3490-4949
    http://hpot.jp/stage/tmjp2014
    11月29日(土) 大阪 サンケイホールブリーゼ
    ブリーゼチケットセンター 06-6341-8888
    http://www.sankeihallbreeze.com/list/drama/2014/06/post-425.html

  • 取材/文:岡本麻佑

  • 撮影:萩庭桂太

    1966年東京生まれ。東京写真専門学校卒業後、フリーランス・カメラマンとして活動開始。
    雑誌、広告、CDジャケット、カレンダー、WEB、等幅広いメディアで活動中。
    ポートレート撮影を中心に仕事のジャンルは多岐にわたる。
    「写真家」ではなく「写真屋」、作家ではなく職人であることをポリシーとしている。
    雑誌は週刊文春など週刊誌のグラビア撮影を始め、幅広い世代の女性ファッション誌の表紙を撮影中。
    http://www.haginiwa.com/