韓国映画界の監督たちは新人も重鎮も、みんな揃って気の良いオッサンのような顔をしている。釜山国際映画祭に集っている彼らは、まるで久しぶりに集った同窓生のよう。野武士のような風貌で知られるキム・ギドク監督でさえ、仲間うちでは優しい表情をしていた。偉そうにしている人や威圧的な人は見当たらず、ワキアイアイと映画話に興じている。
 そんな男たちに混じって、控えめな態度でニコニコと笑っている女性がひとり。なんとこの女性が、韓国では下半期最高の期待作『カート』(11月公開予定)の監督なのだと聞いて、話を聞くことにした。

 韓国には女性監督、たくさんいるんですか?

「10人いないと思います。自費制作している人ならたくさんいるかもしれませんけど、商業ベースに乗っている人は少ないでしょうね。韓国では1年に1000本の映画が作られて、でも一般の劇場で公開されるのはその中でたったの70本程度。私が5年前に作った1作目の作品『シスター・オン・ザ・ロード』も低予算で作って、単館公開だったんですよ」

 そもそもブ・ジヨンさんは、映画会社の企画室でマーケティングの仕事をしていたという。映画ビジネスの片隅でキャリアを積みながら監督への道を模索して、43歳の今、ようやくメジャーな作品を監督できるようになったのだ。

「監督の仕事は楽しいけれど、大変です。一番難しいのは、企画段階で作り上げた構想を、撮影が終るまでずっとぶれずに守り続けることですね。いろんな人に会い、さまざまな人に説明するうちに、たくさんの意見を聞かされるんです。それでも自分を信じて、自分の作りたいものを作り上げるのが、監督の仕事なのだと思います」

 尊敬する監督は、韓国では『殺人の追憶』や『グエムル』などを作ったポン・ジュノ監督、日本映画では『うなぎ』で知られる名匠今村昌平監督だと教えてくれた。
 さてさて、そんな新進気鋭の女流監督、ブ・ジヨンさんの新作『カート』とは?(続く)

  • 取材/文:岡本麻佑

  • 撮影:萩庭桂太

    1966年東京生まれ。東京写真専門学校卒業後、フリーランス・カメラマンとして活動開始。
    雑誌、広告、CDジャケット、カレンダー、WEB、等幅広いメディアで活動中。
    ポートレート撮影を中心に仕事のジャンルは多岐にわたる。
    「写真家」ではなく「写真屋」、作家ではなく職人であることをポリシーとしている。
    雑誌は週刊文春など週刊誌のグラビア撮影を始め、幅広い世代の女性ファッション誌の表紙を撮影中。
    http://www.haginiwa.com/