ク・ヘソンさんが監督した『Daughter』は、母と娘の物語。娘を分身のように愛する母親が、愛を理由に娘を虐待し、自由を奪う。束縛から逃れようとする娘は、母への愛との葛藤に苦しみ…。ここ数年、日本でもたびたび話題になる母と娘の相克がテーマだ。

「私と同年代の女友達は9割方結婚して、子どもも産まれています。彼女たちの話を聞いていて気が付いたんですけど、自分は独立したひとりの女性として生きているのに、いざ自分が子どもを産み、母親になると、子どものことを自分の所有物だと思っているんですね。当たり前のように、自分の子どもはこのように育たなければならない、将来、息子と嫁は自分と同居して欲しいって。結婚の前と後、出産の前と後で、いつのまにか考え方が変化している。それをテーマにできないかと思いました」

 そんな彼女に、ベテラン女優たちも協力を惜しまなかった。母親役を演じたシム・ヘジンさんは「テーマに共感したので、低予算映画を作る後輩の役に立ちたかった」と語っているし、もうひとりのベテラン女優ユン・ダギョンさんは「彼女が書いたシナリオに魅力を感じて出演を決めました。監督としても才能を感じます。韓国のジョディ・フォスターになってほしい」とエールを送っている。「韓国には女性の映画が多くはないので、この映画を通じて若い女性たちと共感したい」というク・ヘソンさんの思いは、韓国映画界の明日を、少し変えるのかもしれない。

 女優としても、彼女はこの作品を通じて成長したようだ。

「本作では女優として、冷徹で冷静な演技に挑戦したかったんです。でも残念ながら俳優である私を、監督の私は気に入りませんでした(笑)。客観的に自分を見ることができたのは収穫でしたけど、ね」

 今年30歳になるク・ヘソンさん。今日の取材は女優として、ではなく、監督バージョンを意識したのか、ナチュラル・メイクで穏やかな表情。とはいえやっぱりその美しさは隠しきれず、そばを通りかかった日本人のファン数人に気付かれ、囲まれて、握手とサインを求められていた。

「いろいろやっているので野心的なのかと思われがちですけど、私自身はスロー・テンポで、何をするにも余裕を持って生きたい人間なんです。できることならこのままマイ・ペースで、女優も監督業も続けて行けたらと思っています」

  • 取材/文:岡本麻佑

  • 撮影:萩庭桂太

    1966年東京生まれ。東京写真専門学校卒業後、フリーランス・カメラマンとして活動開始。
    雑誌、広告、CDジャケット、カレンダー、WEB、等幅広いメディアで活動中。
    ポートレート撮影を中心に仕事のジャンルは多岐にわたる。
    「写真家」ではなく「写真屋」、作家ではなく職人であることをポリシーとしている。
    雑誌は週刊文春など週刊誌のグラビア撮影を始め、幅広い世代の女性ファッション誌の表紙を撮影中。
    http://www.haginiwa.com/