韓国・釜山の空気は熱かった。
 10月2日から10日間、釜山・海雲台で第19回釜山国際映画祭が開催されたのだ。レッド・カーペットに映画スタアが登場するたびに大観衆がどよめき、アジア中から集った人たちが、招待作品のチケット売り場につめかける。

 〝面白い映画を見たい!〟という観客の熱気と、〝面白い映画を作りたい!〟という映画製作者の情熱、そこに〝面白い映画を買い付けるぞ!〟というバイヤーたちの鼻息が加わって、釜山の街全体が華やいでいる。その現場に、ヤジウマ根性で乗り込んだYEO。勝手に、韓国映画の「今」を象徴する女優&監督6人をセレクトして、撮影&インタビューを決行した。

 チョン・ウヒにはいくつもの顔がある?

 透明感のある白い肌に、強い視線。スリムで華奢だけど、体の内側には強い芯が一本通っているように見える。作り笑いはしない。だけど、話の流れでごくごく自然に笑った顔は、妙にあどけない。こんなにキレイなのに、韓国映画界では「外見はイマイチだよね~」と言われてしまうらしい。それでも『母なる証明』『サニー 永遠の仲間たち』などの話題作で強烈な印象を残してきた。その存在感と演技力で、スクリーンに登場するたびに〝新しい顔を見せた〟〝チョン・ウヒ再発見!〟と書き立てられる。

「たしかに毎回、私のビジュアルは違うみたいですね。友人は私の出た映画を見て、〝素顔と全然違う。知らない人みたい!〟と言っていました(笑)。でも顔って、その人が生きるスタイルとか性格とか感情が作るものですから、役によって顔が違ってくるのも当然かな、と。それに、人間だれでもそうだと思いますけど、私には両面性があるんです。優しいときもあれば冷たい瞬間もあるし、社交的な時もあるけど、内向きだったり。それがコンプレックスだった時代もありますけど、今はその振り幅の大きさが、演技に役立っているのかな、と思います」

 さらに今年公開された『ハン・ゴンジュ』は大ヒットし、主演した彼女は大絶賛された。集団レイプされた女子高生が、傷を抱えながら生きる道を模索する物語。抑制された演技で淡々と演じる彼女からは、リアルな心の痛みと凄みが、脈々と伝わってきた。27歳、今や韓国映画界きっての実力派女優になりつつある。

「今が一番重要な時期じゃないかと思います。売れていないときはひとりでいる時間が長かったけど、今は四六時中、たくさんの人がそばに居てくれる(笑)。でも、変ったのは周囲だけで、私自身には何の変化もないんです。次の作品でどう演技するか、大事なのはそれだけ、なんです」

 そんな彼女の次回作は・・・・・。(次に続く)

  • 取材/文:岡本麻佑

  • 撮影:萩庭桂太

    1966年東京生まれ。東京写真専門学校卒業後、フリーランス・カメラマンとして活動開始。
    雑誌、広告、CDジャケット、カレンダー、WEB、等幅広いメディアで活動中。
    ポートレート撮影を中心に仕事のジャンルは多岐にわたる。
    「写真家」ではなく「写真屋」、作家ではなく職人であることをポリシーとしている。
    雑誌は週刊文春など週刊誌のグラビア撮影を始め、幅広い世代の女性ファッション誌の表紙を撮影中。
    http://www.haginiwa.com/