谷口敦史は、自分自身のセンスをどう分析しているのだろう。

「僕自身、田舎で生まれ育ったのは、よかったと思います。草木がどうなっているのかばかり見て育った気がするから。どんなアレンジも『すごく自然な感じがする』ことと『色気』があることが大事だと思っているんです」

 どんな人がその花をもらうのか。その人がその花を気に入ればそれは花屋として成功だ。その最大公約数的な美しさを「自然な感じがする」ことだと彼は解釈している。
 もうひとつ『色気』についてはこう考えている。

「花って、虫をおびき寄せているものだし、自然に色気が備わっていると思うんです。だからそれを生かしたい」

 パリでの挑戦も、自分の思いを変えずに突き進む。

「和風テイストなものを求められたとしても、あえてそれをやるつもりはない。日本人っぽさ、というのは、もっと違う形で出ていると思うんです。たとえば、丁寧な仕事ぶり、とか。反対に、海外から日本を見て、また僕自身の花も無意識のうちに影響を受けていくこともあるかもしれません。日本人というくくりにあまり関心がありません、くくり自体好きではないです、谷口敦史というアイデンティティで花屋をしたいと思っています」

 アーティストとしての覚悟の一方で、やんちゃな花屋のおにいちゃんの顔も忘れない。

  • 谷口敦史

    1975年、和歌山県生まれ。役者を志して上京するが、やがて花屋に就職。実家にいったん戻り、25歳のとき花の仕事に戻り、神戸市東灘区でI’lloney(I’llony)を立ち上げる。2年後、芦屋市に進出。高級ブランド店の飾花を受注するようになる。
    2009年、東京・表参道に進出。自ら作品を撮りためた『FLOWBULOUS』を自費出版し、累計4万部を売る。今年度中にパリ出店を目指し、現在準備中。http://www.illony.com

  • 森 綾

    1964年大阪生まれ。ラジオDJ、スポーツニッポン文化部記者、FM802編成部を経て、92年に上京、フリーランスに。雑誌、新聞を中心に発表した2000人以上のインタビュー歴をもち、構成したタレント本も多数。
    自著には女性の生き方をテーマにしたものを中心に『キティの涙』(集英社)、『マルイチ』(マガジンハウス)、『大阪の女はえらい』(光文社知恵の森文庫)など多数。映画『ハンティングパーティー』のノベライズ、映画『音楽人』の原作WEB小説などノンフィクション、フィクションを問わず執筆する。
    公式ホームページ http://moriaya.jimdo.com/

  • 撮影:萩庭桂太

    1966年東京生まれ。東京写真専門学校卒業後、フリーランス・カメラマンとして活動開始。
    雑誌、広告、CDジャケット、カレンダー、WEB、等幅広いメディアで活動中。
    ポートレート撮影を中心に仕事のジャンルは多岐にわたる。
    「写真家」ではなく「写真屋」、作家ではなく職人であることをポリシーとしている。
    雑誌は週刊文春など週刊誌のグラビア撮影を始め、幅広い世代の女性ファッション誌の表紙を撮影中。
    http://www.haginiwa.com/