パリの16区は日本人も多い高級住宅地だ。今、谷口はそこでの物件を待っている状態。

「花を気に入ってくれたフランス人が紹介してくれたんです。前の人が出ていくのでちょっと待ってくれ、と。物件の交渉だけは通訳に入ってもらっています。あとは全部、英単語で押し切ってます!(笑)」

 パリで仕事をしたいと思った一番の理由を、彼はこう語る。

「決定的に違うのが、仕事の取り組み方です。こっちだと、ブランドのメゾンの仕事を頼まれたら、まず向こうのイメージ、要望から話が始まる。花屋の個性を殺してでも、それを忠実に形にするほうがうまくいく。でもパリのフローリストを見ていると、その花屋の個性がまずありきなんです。メゾンはその個性を選んでいく。花を一つの作品、クリエーションとして対等に見てくれるんですね。フローリストもアーティストとして常にチャレンジしている。いいと思うものを認められるかどうか」

 もともと、写真が好きだったが、撮り貯めた花で『FLOWBULOUS』 という写真集を作っている。それをパリでも売り始めた。

「英単語で本屋に営業に行きまして(笑)。もともと、たくさんの人に見てもらいたいから500円で売りたいと思った本だったんですね。それで2万部刷ればいいと思ったので、無謀だと言われながらも刷りました。反対を押し切って出版したところ、いくつかの本屋さんが共感してくれて完売したんです。日本でも手売りで売っていますから。(この部分、すごく大事にしてる部分です。この写真集を見て、僕の花が好きか嫌いかでコミュニケーションできます」

 『FLOWBULOUS』はおそらく彼の英単語以上に、彼自身のことをパリで伝えているに違いない。

  • 谷口敦史

    1975年、和歌山県生まれ。役者を志して上京するが、やがて花屋に就職。実家にいったん戻り、25歳のとき花の仕事に戻り、神戸市東灘区でI’lloney(I’llony)を立ち上げる。2年後、芦屋市に進出。高級ブランド店の飾花を受注するようになる。
    2009年、東京・表参道に進出。自ら作品を撮りためた『FLOWBULOUS』を自費出版し、累計4万部を売る。今年度中にパリ出店を目指し、現在準備中。http://www.illony.com

  • 森 綾

    1964年大阪生まれ。ラジオDJ、スポーツニッポン文化部記者、FM802編成部を経て、92年に上京、フリーランスに。雑誌、新聞を中心に発表した2000人以上のインタビュー歴をもち、構成したタレント本も多数。
    自著には女性の生き方をテーマにしたものを中心に『キティの涙』(集英社)、『マルイチ』(マガジンハウス)、『大阪の女はえらい』(光文社知恵の森文庫)など多数。映画『ハンティングパーティー』のノベライズ、映画『音楽人』の原作WEB小説などノンフィクション、フィクションを問わず執筆する。
    公式ホームページ http://moriaya.jimdo.com/

  • 撮影:萩庭桂太

    1966年東京生まれ。東京写真専門学校卒業後、フリーランス・カメラマンとして活動開始。
    雑誌、広告、CDジャケット、カレンダー、WEB、等幅広いメディアで活動中。
    ポートレート撮影を中心に仕事のジャンルは多岐にわたる。
    「写真家」ではなく「写真屋」、作家ではなく職人であることをポリシーとしている。
    雑誌は週刊文春など週刊誌のグラビア撮影を始め、幅広い世代の女性ファッション誌の表紙を撮影中。
    http://www.haginiwa.com/