東京・表参道に、最近気になるビルがある。
 古めのマンションっぽいつくりで、1階に某有名スタイリストさんの雑貨屋が入っており、2階にはやはりシンプルで洒落たものを置く雑貨屋さんとアート系のものを扱う本屋さん、そして花屋がある。
 このビルに入り込むと東京を旅しているような気持ちになる。よくパリやニューヨークやベルリンといった海外の都市で「えっ、こんな場所にこんな素敵な店があるのに気づいたのは私だけかも」と錯覚する、あの感覚に近いような気がするのだ。
 その花屋さんも何度か使わせてもらったことがあった。
 I’ll ony 。「アイロニー」という花屋だ。
 店は清潔感があってそんなにぎゅうぎゅう花が置いてあるわけではない。でもなんとなく、ひとつひとつの花が粋な顔をしている。
 花束をお願いすると、誰にどんな風にあげるのか、店の人にさりげなく聞かれる。出来上がった花は「おー、これはきっと喜ばれそう」と気持ちをわくわくさせてくれる。
 こちらからもあれこれ尋ねると、どうやら兵庫県芦屋市から出店してきた店だとわかった。なるほど、関西有数の高級住宅地で、そこのマダムたちに愛された…、という雰囲気は確かにこの店の花にある。
 なんというか、品がよくて艶やかなのである。
 花の合わせ方も華道にこだわる日本人がやらないようなことをしている。
 華道にもいろんな流派があるけれど「真、副、体」という3つのバランスが基本になっているところはあまり変わらない。そしてそれぞれに花や木、草を選ぶ
けれど、なんとなく「真」になれる花というのを引き立てて後のものを考えるクセがあるような気がする。要するに「真」の花が主役になるわけだ。
 でもI’llonyの花束やアレンジメントは、宝塚の舞台の最後のように、主役が2人いてわーっとスターが揃っているけど全体的に華やか、という感じがするのである。
 まさかそのI’llonyの店主にYEOで話を聴くことになるとは夢にも思わなかった。店主の谷口敦史さんは、あくなきチャレンジャーなのであった。

  • 谷口敦史

    1975年、和歌山県生まれ。役者を志して上京するが、やがて花屋に就職。実家にいったん戻り、25歳のとき花の仕事に戻り、神戸市東灘区でI’lloney(I’llony)を立ち上げる。2年後、芦屋市に進出。高級ブランド店の飾花を受注するようになる。
    2009年、東京・表参道に進出。自ら作品を撮りためた『FLOWBULOUS』を自費出版し、累計4万部を売る。今年度中にパリ出店を目指し、現在準備中。http://www.illony.com

  • 森 綾

    1964年大阪生まれ。ラジオDJ、スポーツニッポン文化部記者、FM802編成部を経て、92年に上京、フリーランスに。雑誌、新聞を中心に発表した2000人以上のインタビュー歴をもち、構成したタレント本も多数。
    自著には女性の生き方をテーマにしたものを中心に『キティの涙』(集英社)、『マルイチ』(マガジンハウス)、『大阪の女はえらい』(光文社知恵の森文庫)など多数。映画『ハンティングパーティー』のノベライズ、映画『音楽人』の原作WEB小説などノンフィクション、フィクションを問わず執筆する。
    公式ホームページ http://moriaya.jimdo.com/

  • 撮影:萩庭桂太

    1966年東京生まれ。東京写真専門学校卒業後、フリーランス・カメラマンとして活動開始。
    雑誌、広告、CDジャケット、カレンダー、WEB、等幅広いメディアで活動中。
    ポートレート撮影を中心に仕事のジャンルは多岐にわたる。
    「写真家」ではなく「写真屋」、作家ではなく職人であることをポリシーとしている。
    雑誌は週刊文春など週刊誌のグラビア撮影を始め、幅広い世代の女性ファッション誌の表紙を撮影中。
    http://www.haginiwa.com/