大阪で、花屋に勤めた。その店は芦屋のレストランと契約していて、そこを任せてもらった。

「ただ僕は常にこういう方がいい、という自分の考えがあったので、自分で始めたほうがいいと思ったんです」

 すぐに辞め、神戸市東灘区にI’llonyを立ち上げた。事務所にもできるような部屋を借り、住居もそこを兼ねた。

「夕方からバーでキッチンスタッフとして朝4時まで働いて、そこから花の仕入れに行って、下処理をしました。9時から正午過ぎまで、花の水揚げを待つ時間に寝ます。その後、ネットショップからの注文を作ったり、レッスンしたり。そしてまたバイトへ。その生活を2年やって、芦屋に小さい物件が出たのでそちらへ移転しました」

 1人でのんびりはしていられない性質らしい。競争店は芦屋の大きな店。優先的にいい花がそちらに卸される。

「でも頑張って3年目くらいにブランドの仕事ができるようになりました。ある高級ブランド店が抜擢してくれたのが大きかったです。でもだんだん、芦屋店を世界一好きな花屋にしたいという思いの先に、東京やパリに店を出したいと思うようになったんです」

 最初は神宮前の知人のオフィスを借り、ブログや口コミで生徒を集めてレッスンだけをしに来ていた。

「そこへ、今の店の物件の話をもらった。最初に考えていた予定より早かったけど、ちょっと無理して来てみたんです」

 表参道の店も軌道に乗った。そこで次の目的であるパリを目指し始めた。

「『パリに行きたい』とずっと言っていたら、『物件があるよ』声をかけてくれた人がいて、いろいろ考えたけど、今しかないな、と。言葉を習得してからじゃ遅過ぎる。で、蓋を開けてみたらやっぱりその物件はダメだったんですけど」

 だが、彼は次の物件を探し始めた。パリでの基盤を築くために、とにかく現地に通おうと決めた。

「3週間パリにいて、10日間日本にいる。うち芦屋4日です。嫁は最初賛成でもなかったです、反対しても僕が言うことをきかないのはわかっていますから。今は応援してくれてます」。

  • 谷口敦史

    1975年、和歌山県生まれ。役者を志して上京するが、やがて花屋に就職。実家にいったん戻り、25歳のとき花の仕事に戻り、神戸市東灘区でI’lloney(I’llony)を立ち上げる。2年後、芦屋市に進出。高級ブランド店の飾花を受注するようになる。
    2009年、東京・表参道に進出。自ら作品を撮りためた『FLOWBULOUS』を自費出版し、累計4万部を売る。今年度中にパリ出店を目指し、現在準備中。http://www.illony.com

  • 森 綾

    1964年大阪生まれ。ラジオDJ、スポーツニッポン文化部記者、FM802編成部を経て、92年に上京、フリーランスに。雑誌、新聞を中心に発表した2000人以上のインタビュー歴をもち、構成したタレント本も多数。
    自著には女性の生き方をテーマにしたものを中心に『キティの涙』(集英社)、『マルイチ』(マガジンハウス)、『大阪の女はえらい』(光文社知恵の森文庫)など多数。映画『ハンティングパーティー』のノベライズ、映画『音楽人』の原作WEB小説などノンフィクション、フィクションを問わず執筆する。
    公式ホームページ http://moriaya.jimdo.com/

  • 撮影:萩庭桂太

    1966年東京生まれ。東京写真専門学校卒業後、フリーランス・カメラマンとして活動開始。
    雑誌、広告、CDジャケット、カレンダー、WEB、等幅広いメディアで活動中。
    ポートレート撮影を中心に仕事のジャンルは多岐にわたる。
    「写真家」ではなく「写真屋」、作家ではなく職人であることをポリシーとしている。
    雑誌は週刊文春など週刊誌のグラビア撮影を始め、幅広い世代の女性ファッション誌の表紙を撮影中。
    http://www.haginiwa.com/