あるコンサートの打ち上げで、プロモーターのAさんと、こんな会話をした。

「すごいダンス・カンパニーがあるんです」

「なんのダンスですか」

「もともとはストリート・ダンスなんですが、コンテンポラリーな要素もありますし、まあなんというか、見てもらうのが一番なんですが」

「はあ」

「とにかく、坂東玉三郎さんも絶賛しておられていて、来年3月には玉三郎さんの演出で舞台もやるんです」

「ほお!」

どういうジャンルなのかよくわからないが、それは良い意味にとれば「ジャンルを超えている」ということなのかもしれない。私はそこに小さな期待をもった。

数日後、送られてきたDVDがDAZZLE 公演『花ト囮』(はなとおとり)であった。

拝見すると、それはダンスでありながら、芝居なのだ。

演劇、民話、アニメ、歌舞伎、文楽…様々な表現の要素が詰まっているが、登場するすべての身体は踊っている。その踊りは確かにストリート・ダンス的であり、コンテンポラリー・ダンス的でもある。

しかし「狐」を表現する動きなどを見ていると、10年くらい前に観た故・十八代目中村勘三郎(当時はまだ勘九郎)の『義経千本桜』に出てくる「狐忠信」を思い出した。

独特の世界である。ストーリーは民話的なものが下敷きになっている。

 …むかしむかし、あるところに仲のよい兄弟がいて、弟が露の屋敷の主から「大事な役目」を仰せつかる。なんでもその家のひとり息子の世話だというのだ。2人は手をつないで露の屋敷を目指し、森の中を歩くが、そこで見てはならないものを見てしまう。「狐の嫁入り」である。
 弟が屋敷に選ばれたことを嫉妬した兄はついうっかり弟の手を離してしまう。…

 

観る者も惑わされてしまいそうな幻灯を観るような美しさ。

なるほどDAZZLEというカンパニー名も「人を惑わす。幻覚させる」というような意味だった。

この新しい怖さを作っている人に会わなければ。

私はDAZZLEを18年間引っ張ってきているという、代表の長谷川達也に早く会いたいと思った。

  • 長谷川達也

    1977年千葉県生まれ。ダンス・カンパニー「DAZZLE」主宰、ダンサー、演出・振付家。SMAP、V6、TRF、Mr.Childrenらのアーティストのサポート・ダンサー、PV出演などを務め、その後、舞台作品の振付、出演など幅広く活動。ストリート・ダンス、コンテンポラリー・ダンスで受賞多数。演出を含め主演した舞台作品『花ト囮』2009年初演で演劇祭グリーンフェスタ グランプリ。その後、ルーマニアのシビウ国際演劇祭への招聘など、海外からも注目が集まっている。
    『花ト囮』は、いよいよ9月6、7日の2日間、東京国際フォーラム・ホールCで公演される。
    DAZZLE公式ホームページ http://www.dazzle-net.jp/

  • 森 綾

    1964年大阪生まれ。ラジオDJ、スポーツニッポン文化部記者、FM802編成部を経て、92年に上京、フリーランスに。雑誌、新聞を中心に発表した2000人以上のインタビュー歴をもち、構成したタレント本も多数。
    自著には女性の生き方をテーマにしたものを中心に『キティの涙』(集英社)、『マルイチ』(マガジンハウス)、『大阪の女はえらい』(光文社知恵の森文庫)など多数。映画『ハンティングパーティー』のノベライズ、映画『音楽人』の原作WEB小説などノンフィクション、フィクションを問わず執筆する。
    公式ホームページ http://moriaya.jimdo.com/

  • 撮影:萩庭桂太

    1966年東京生まれ。東京写真専門学校卒業後、フリーランス・カメラマンとして活動開始。
    雑誌、広告、CDジャケット、カレンダー、WEB、等幅広いメディアで活動中。
    ポートレート撮影を中心に仕事のジャンルは多岐にわたる。
    「写真家」ではなく「写真屋」、作家ではなく職人であることをポリシーとしている。
    雑誌は週刊文春など週刊誌のグラビア撮影を始め、幅広い世代の女性ファッション誌の表紙を撮影中。
    http://www.haginiwa.com/