このYOUR EYES ONLYが始まってからというもの、のんびり遊ぶとか、週末にゆっくりするということが皆無になった。他の仕事もおかげさまで順調にいただき、日夜、MacBook Air片手に電源のあるカフェで原稿を書いている。

 しかし私は20代をバブル期に翻弄された人間である。3カ月に1回くらいはむしょうに賑やかな場所に行きたくなる。3月のその夜も来日間もない外国人の友人に「すごくいいバーを見つけたから」と誘われ、遅くから六本木に繰り出した。

 行ってみると、なんのことはない「MOTOWN HOUSE」であった。「こんな店、20年以上前から知ってるっちゅうねん」と日本語で小さくグチりながら小さな丸テーブルに座る。と、目の前の席に二人の日本人の中年男がどかっと座った。

 50前後だろうか。なんとなくお金をもってはいそうだが、デートはしたくない感じのくたびれた二人である。なぜ男は45歳を過ぎると急速に清潔感を失っていくのであろうか。いや、それよりまず礼儀だろう。「相席いいですか」くらい聞いたらどないやねん。

「いやー。パーティーは疲れるね」
「しかしまあ、いいパーティーだったね」
「オッシー、なかなか真面目な男じゃないか」
「うん」

 中年男の汗かきなほうが紫の扇子を広げてパタパタ扇ぎ始めた。その扇子に「30th DJ OSSHY」と書いてあるのを見て、私はちょっと興味をもった。どの道、小さなテーブルで、しばらくはご一緒しなくてはならないのである。

 私は思いきって尋ねた。

「あの、なんのパーティーだったんですか」

 すると、てっぺんがややバーコードになっている男のほうがにやっとして答えた。

「DJ OSSHY だよ。知らない? ディスコDJなんだけど、今インターFMで彼のダンスミュージックの番組がすごくレーティングいいんだ。その彼の30周年でさ」

 私は驚いて思わず言った。

「ディスコのDJを30年も、ですか!」

 関西で女子大生をしていた頃のディスコの光景が脳裏に蘇った。夜ご飯はマハラジャやジュビレーションのフリーフード&フリードリンクにお世話になったものだ。あの頃のイケてる女子大生は皆、モスコミュールを飲み、ワンレン&JUNKO SHIMADAのワンピで、レノマのバッグをもっていた。ちゃらい男がもて、国公立の将来有望な男たちは腰まであるジーンズをはいて一人で鏡に向かって踊っていた。♫ ドモアリガト ミスターロボット……。

 あの空気の中に変わらず30年もいる男って……。

 関西時代、ディスコ界隈にいた男たちを思い出すと、アパレル会社を興したものの潰して夜逃げしたり、不動産バブルがはじけていなくなったり。幸いにも成功したところで、飲食業界やIT系に転身していたり。たいていの人が、甘い話や誘惑に負けて転落しているか、まったく異業種で成功しているかのどちらかなのである。

 そのまんまディスコのDJをしているなんて、意外に意思の強い、真面目な人なんじゃないかと、私は直感的に思った。某紙でラジオに関するコラムを長年連載していることもあり、頭の中にDJ OSSHYと、メモをした。

 そしてその会話をきっかけに、私と友人はその二人の中年男に白ワインを一本開けさせることに成功した。

 しかしなぜか不思議と会話が弾む。内容が近い。なんだかいやな予感がするなと思ったら、汗かきとバーコードと私は、同い年なのであった……。

  • 出演:DJ OSSHY

    1965年生まれ。立教高校在学中の1982年から渋谷「キャンディ・キャンディ」でDJデビュー。アメリカ留学後、伝説のディスコ「キサナドゥ」「ナパーナ」などでメインDJ として活躍。昨年DJ生活30周年を迎え、現在「Dynasty Tokyo」などでディスコイベントを企画主宰し、人気を集めている。現在「レディオ・ディスコ」(インターFM)、「ディスコ・トレイン」(TOKYO MX)テレビのレギュラー番組を持つ。本名・押阪雅彦。
    http://www.osshy.com/profile.html
    http://www.so-pro.co.jp/talent/profile_132.html

  • 取材・文:森 綾

    大阪市生まれ。スポニチ大阪文化部記者、FM802開局時の編成部員を経て、92年に上京後、現在に至るまで1500人以上の有名人のインタビューを手がける。自著には『マルイチ』(マガジンハウス)、『キティの涙』(集英社)(台湾版は『KITTY的眼涙』布克文化)など、女性の生き方についてのノンフィクション、エッセイが多い。タレント本のプロデュースも多く、ゲッターズ飯田の『ボーダーを着る女は95%モテない』『チョココロネが好きな女は95%エロい』(マガジンハウス)がヒット中。
    ブログ「森綾のおとなあやや日記」 http://blogs.yahoo.co.jp/dtjwy810

撮影:萩庭桂太