日本でも人気になったテレビドラマ『イ・サン』にもチ・ソンウォン名義で出演していたファン・グムヒ。意志の強そうなきりっとした目元にとても存在感がある。

 2~3年前にゆうばり国際ファンタスティック映画祭にも来たことがあるという。映画での初出演作品は#1に記したキム・ギドクの助監督をしていたチャン・チョルス監督作品『ビー・デビル』。ソウルで働いていた女性が9人しか人が住んでいない平和な島を訪れ、そこで幼なじみの女性と出会うが、実は島の裏側にある暗い事情を知ってしまう。

「ちょっと怖い映画ですが、面白いですよ。今回の映画祭はチャン・ヒョンス監督の『アビ』という作品に出ています。主人公の父親の愛人の役です」

 大学で演技を勉強した正統派。この国の本流俳優は、その存在感が圧倒的に強く、自信が伝わってくる。

「人々にいい夢を見せるのも役者の仕事だし、観る人がそこに自分を映し出す鏡となるのも役者の仕事。なんと言われようが、演じていればいい。私は演技することが一番幸せで、演技しているときに自分の存在意義を感じるんです」

 笑わない人だった。何かを達観しているような、凛とした顎が印象に残った。

(取材・文:森 綾/撮影:萩庭桂太)