立派な白い髭をたくわえたダーブロウ父とインドの布をパッチワークしたコートを羽織ったダーブロウ母は、ものすごく大きな荷物をいくつも持って現れた。中には、今日の父と有紗の衣装が入っているという。

 娘のために、と貴重な休日に駆けつけてくださったのである。

 ダーブロウ父は現在、成蹊大学でTOEIC向けの英語を教える先生をする傍ら、リュートという楽器の奏者でもある。リュートとはギターの前身と言われる楽器で、中世ヨーロッパで弾かれていたものだ。ボディの部分が琵琶みたいな形をしており、12弦張られている。ポロロン、と、繊細な優しい音がする。映画『ロミオとジュリエット』のテーマ曲を弾いてくださったのがとてもいい感じだ。

 そのリュートを演奏する彼のステージのために、ダーブロウ母はヨーロッパの中世、ルネッサンス、バロック時代の衣装を作り始めたのだそうだ。

「主にアメリカに残っているものですが、いろんな資料をもとに作っていて最近は貸し出したりもしているんです。今日の二人の衣装はルネッサンス時代のスタイル。有紗が着ているのはアン王女の絵をもとに作ったものです」

「着替えましょう」

 意外に着やすくできていた。あっという間に、井の頭公園の中で、二人だけが古きよきベネチア人になった。

 有紗は終始楽しげだった。

「父の音楽の才能を尊敬しているし、母の洋服をつくったりイラストを描いたりする芸術の才能も尊敬しています。そういう楽しいことが普通にある家で生まれたことが恵まれているなと感じます。私も自然に絵を描いたり、趣味でガールズ・バンドをやっていたり。ベースを弾いています」

 イラストも見せてもらった。きれいだとか可愛いとかというよりは、わりとシュールな似顔絵だった。

「私は想像して描くよりも、特徴をつかんでリアルに描きたいタイプなんです。似ているかどうかは別として、似顔絵みたいなのは得意かも。時間をかけていいならいくらでも描きますよ。油絵も好きです」

 気取りなく、当たり前にアートのある一家。自由な空気感が、このピュアな彼女の佇まいをつくっているのだろう。

「埼玉の地元では、夏になると父は川へ泳ぎに行くんです。私にもいまだに『さあ、泳ぎにいくぞ』と誘うんですよ。でも町には河童伝説があって、父は中学生に河童に間違えられたこともあったみたいです」

 最初の緊張はどこへやら、我々はダーブロウ一家ののんびりした空気感にいつのまにかなじんでいることに気づいた。

  • 出演:ダーブロウ有紗

    1988年、東京都生まれ。父親はアメリカ人、母親は日本人。物心つく前からモデルとして活躍、10代の頃にはカリスマ・ローティーン・モデルに。20歳を過ぎて3年間、芸能活動を休止。復帰後、タレント、モデルとして活躍中。
    http://advance-production.jp/talent/2013/12/post.html
    http://ameblo.jp/arisa-desire/

  • 取材・文:森 綾

    大阪市生まれ。スポニチ大阪文化部記者、FM802開局時の編成部員を経て、92年に上京後、現在に至るまで1500人以上の有名人のインタビューを手がける。自著には『マルイチ』(マガジンハウス)、『キティの涙』(集英社)(台湾版は『KITTY的眼涙』布克文化)など、女性の生き方についてのノンフィクション、エッセイが多い。タレント本のプロデュースも多く、ゲッターズ飯田の『ボーダーを着る女は95%モテない』『チョココロネが好きな女は95%エロい』(マガジンハウス)がヒット中。
    ブログ「森綾のおとなあやや日記」 http://blogs.yahoo.co.jp/dtjwy810

衣装協力:ちよギャラリー http://chiyogallery.cocolog-nifty.com/
撮影協力:FLYCKA HAIR http://flycka-hair.com/
撮影:萩庭桂太