撮影は冷たい雨の降る日に行われた。萩庭桂太も私もかなりの晴れ男晴れ女で、過去17年をさかのぼる私の記憶では、このコンビのロケで雨が降ったケースは、ない。

 だが、「雨だから悪い絵になるってことはない」というのが萩庭桂太の持論で、確かにそれもそうかも、と私たちは雨の南青山界隈をウロウロしたのであった。

 今回のテーマは「街中で音楽を奏でる」というもの。珍しく萩庭桂太がロマンチックなことをやりたいという。だから雨が降ったのかもしれない……。

 というわけで、挾間さんには街のあちこちでタクトを振ってもらうことになった。

 しかも目に見えないタクト、である。

 最初はちょっと恥ずかしがっていた彼女も、ロケが進むにつれ「面白い!」と目を輝かせ、本気でタクトを振ってくれた。地下鉄の駅を足早に行く人たちが「なんだ、なんだ?」と、彼女と遠ざかってから振り向いた。すべての撮影が終わって彼女に感想を聴いた。

「地下鉄の改札の前は楽しかったですね。みんなに見られる方が集中できました。その場の自分になりきるのが楽しかった。違う自分に会える気がして」

 モデルのように撮られるのが仕事ではない人だけど、自分の生き方に自信があるから、どんなふうにもなりきれるんだろうな、と感じた。

  • 出演:挾間美帆

    1986年生まれ。2009年、国立音楽大学作曲専攻卒業。在学中より作編曲活動を行い、08年、山下洋輔の「ピアノ・コンチェルト第3番『エクスプローラー』」のオーケストレーションを担当、絶賛される。2010年、ニューヨークに留学し、2012年にマンハッタン音楽院大学院を優等で卒業。同年11月「ジャズ作曲家」としてデビューアルバム「Journey to Journey」をリリースした。2013年1月11日、東京オペラシティのニューイヤー・コンサートに登場する。
    http://www.jamrice.co.jp/miho/

  • 取材・文:森 綾

    大阪市生まれ。スポニチ大阪文化部記者、FM802開局時の編成部員を経て、92年に上京後、現在に至るまで1500人以上の有名人のインタビューを手がける。自著には『マルイチ』(マガジンハウス)、『キティの涙』(集英社)(台湾版は『KITTY的眼涙』布克文化)など、女性の生き方についてのノンフィクション、エッセイが多い。タレント本のプロデュースも多く、ゲッターズ飯田の『ボーダーを着る女は95%モテない』『チョココロネが好きな女は95%エロい』(マガジンハウス)がヒット中。
    ブログ「森綾のおとなあやや日記」 http://blogs.yahoo.co.jp/dtjwy810

撮影:萩庭桂太