挾間美帆は一人っ子である。音大を卒業後、就職してくれるものと思っていたのに、いきなりまたニューヨークに行きたいというのだから、ご両親もさぞや驚かれたことだろう。

「幸運なことに留学した大学院から学費奨学金を、2年目は文化庁からも奨学金をいただけたんです」

 意志あるところに道あり、である。この勇敢さ、まっすぐに音楽に突き進む生き方は、そのまま彼女の音楽にもなっているような気がする。

「背中を押してくれた恩人は数えきれないほどいますが、その1人は2008年にオーケストレーションをお手伝いさせてもらった山下洋輔さん。これは最初の大きな仕事になりました。そしてこの作品の初演(東京オペラシティのニューイヤージャズコンサート)で佐渡裕さんが指揮されたんです。そのとき、ああ、自分がやりたいことは芸術でいいんだ、と思えたんです。それまでは商業音楽なのか、演奏なのか、芸術なのか、自分の生かし方を迷っていた気がします」

 海外での様々な学習と経験は、彼女を大きく変えた。

「外に出ることによって、いろんなことが明確になりました。日本はどうなっているのか、日本人として何ができるのか、私という人間の個性はどういうものか。そういう私の目標はどこにあるのか」

 2年前には考えてもみなかったことだったという。そして彼女は今、はっきりと選び取った。

「作編曲家として、良いものを発信し続ける人になりたい。自分のユニットも続けつつ、ヨーロッパでもツアーをしたり、ジャズフェスにも出演したいと思います」

 ルックスは女性的なのに男らしいですね、と言うと、ちょっと恥ずかしそうに笑った。

「留学した時点で男性的になっちゃったかも。世界に目が向くと、はんなりした私には戻れないですね。いや、もともとそうじゃなかったか(笑)。好きなことを仕事にしていると、オンとオフがなくなってしまうんです。そこに疑問や不安はあまりないんですが、普通に会社員をしている女友達とか両親のことは、尊敬するようになりました」。

  • 出演:挾間美帆

    1986年生まれ。2009年、国立音楽大学作曲専攻卒業。在学中より作編曲活動を行い、08年、山下洋輔の「ピアノ・コンチェルト第3番『エクスプローラー』」のオーケストレーションを担当、絶賛される。2010年、ニューヨークに留学し、2012年にマンハッタン音楽院大学院を優等で卒業。同年11月「ジャズ作曲家」としてデビューアルバム「Journey to Journey」をリリースした。2013年1月11日、東京オペラシティのニューイヤー・コンサートに登場する。
    http://www.jamrice.co.jp/miho/

  • 取材・文:森 綾

    大阪市生まれ。スポニチ大阪文化部記者、FM802開局時の編成部員を経て、92年に上京後、現在に至るまで1500人以上の有名人のインタビューを手がける。自著には『マルイチ』(マガジンハウス)、『キティの涙』(集英社)(台湾版は『KITTY的眼涙』布克文化)など、女性の生き方についてのノンフィクション、エッセイが多い。タレント本のプロデュースも多く、ゲッターズ飯田の『ボーダーを着る女は95%モテない』『チョココロネが好きな女は95%エロい』(マガジンハウス)がヒット中。
    ブログ「森綾のおとなあやや日記」 http://blogs.yahoo.co.jp/dtjwy810

撮影:萩庭桂太