今回ご登場いただくのは、斉藤里恵さん。『筆談ホステス』の著者として、多くの人が記憶していることだろう。難聴者でありながら、筆談によってたくさんの人と対話をしてきたという彼女へのインタビューは、やはり書面が中心になるかと思われた。

 だが、本人にお会いしてみると、言葉を交わしていなくても、なんだか一緒におしゃべりしているような気持ちになるから不思議。里恵さんのくるくる変わる豊かな表情と身振り手振りのほうが、手元の資料よりも多くのことを伝えてくれるのだ。

 里恵さんが聴力を失ったのは1歳10カ月のとき。しかし、本人がそれを自覚するようになるのは、もう少し後のことだ。

「3歳くらいだったと思います。私だけ両胸と耳に補聴器をつけている、それが恥ずかしいと感じたのです。そして、周りのお友達がいつも心配してくれたり、面倒をみてくれるので……たいへん有り難いことなんですが、私は1人では何もできないんだ、障がい者なんだ、と感じたことを覚えています」

 しかし彼女は持ち前の華やかさと、芯の強さで、難聴者ならではのコミュニケーションである筆談を通して、出会った人々の心に残る言葉を伝えてきた。

 そうして斉藤里恵という女性が世間で知られるようになったのは2009年に『筆談ホステス』を上梓してからだ。翌10年にはドラマも放映された。
「あの頃は、慣れないことが多くて、うまく対応できなかったと今になって思います。とにかく、初めての出来事がいろいろと重なりました。本の出版にサイン会、初めてのテレビ出演、青森市の観光大使、ドラマ、そして妊娠……」

 そう、里恵さんは4年前に一児の母になった。しかも、一人でハワイに渡って、出産したという。そもそも、なぜハワイを選んだのだろうか? そして、彼女は異国の地で何ごともなく出産することができたのだろうか?

  • 斉藤里恵

    1984年2月3日生。青森県出身。髄膜炎の後遺症で1歳10カ月で聴力を完全に失う。接客業の楽しさに目覚め19歳で水商売の道に進む。東京銀座の高級クラブで筆談ホステスとして人気ナンバーワンとなる。2009年青森市の観光大使に就任。同年『筆談ホステス』『筆談ホステス~愛の言葉』(光文社)および同書コミックス版は累計50万部突破のベストセラー。10年ハワイで第一子となる女の子を出産。4歳になる娘の育児を日々楽しんでいる。

    オフィシャルブログ「筆談ホステス」斉藤里恵のほっこり日記
    http://ameblo.jp/saitorie/

  • 取材・文:加藤いづみ

    コピーライター。東京都出身。成城大学文芸学部卒。広告、SP、WEBのコピーライティング、企画のほか、1996年より某企業のPR冊子(月刊)制作を継続して手がけている。
    https://www.facebook.com/mi.company

撮影:萩庭桂太