取材当日、栄万ちゃんはベビーカーに乗って現れた。といっても、もう4歳なので部屋に入ると元気に飛び降りて、遊びはじめた。すでに一度会ったことがあるという萩庭カメラマンと栄万ちゃんはすっかり仲良し。そんな二人の姿を眺めながら、栄万ちゃんについて尋ねた。

「先日、娘と友人と3人で香港に旅行しました。同行した友人も耳が聴こえないので、部屋の電話が鳴ると、娘が代わりに電話に出てくれました。といっても香港は英語ですから、娘が聞き取った言葉をそのままゆっくり伝えてくれるのです。小さいながらとっても頼もしくて、心強くて、可愛くて」

 インタビューの合間に、栄万ちゃんが里恵さんに話しかける。口を大きく開けたり、しっかり閉じるなどハッキリと話す様子から、お母さんにきちんと伝えようという強い意志が伝わってくる。

「ほかのママと違って“ママ!”って呼んでも振り向いてくれないし、耳が聴こえるママがいいよね? ごめんね、って言ったら、『わたし耳が聴こえないママがいい! だってエマだけのママだからね!』と言われて、思わず泣いてしまいました」

 栄万ちゃんは日頃、「ママは聴こえないけどエマが聴こえるから大丈夫だよ! エマが守るからね!」と言っているという。本当に頼もしい4歳だ。

 子育てをすることで、周囲との関係も変わってきた。両親や兄弟と家族団らんの機会が増え、笑顔が増えた。

「子どもを育てて初めて、両親がどんな思いで自分を育ててくれたのかが手に取るようにわかるようになり、絆も今まで以上に深まりました。今、家族の真の愛を感じることができて本当に幸せです」

 栄万ちゃんが幼稚園受験をするにあたって、ママ友も増えたという。

「本当に子どもが大好きで、気にかけてくれるお友達が増えました。みなさんの愛に包まれて心穏やかに幸せな気持ちで過ごせることに感謝しています」

 現在、栄万ちゃんと二人暮らしの里恵さん。心穏やかに過ごせるようになるまでには、怒ってばかりいる時期が続いていたという。彼女が、自分の怒りを抑えることができるになったきっかけとは?

  • 斉藤里恵

    1984年2月3日生。青森県出身。髄膜炎の後遺症で1歳10カ月で聴力を完全に失う。接客業の楽しさに目覚め19歳で水商売の道に進む。東京銀座の高級クラブで筆談ホステスとして人気ナンバーワンとなる。2009年青森市の観光大使に就任。同年『筆談ホステス』『筆談ホステス~愛の言葉』(光文社)および同書コミックス版は累計50万部突破のベストセラー。10年ハワイで第一子となる女の子を出産。4歳になる娘の育児を日々楽しんでいる。

    オフィシャルブログ「筆談ホステス」斉藤里恵のほっこり日記
    http://ameblo.jp/saitorie/

  • 取材・文:加藤いづみ

    コピーライター。東京都出身。成城大学文芸学部卒。広告、SP、WEBのコピーライティング、企画のほか、1996年より某企業のPR冊子(月刊)制作を継続して手がけている。
    https://www.facebook.com/mi.company

撮影:萩庭桂太