「ギャア――――――!」

「ちょっと待って、私、落ちる!」

 全員そろってのソファでの撮影は子猫の姉妹が戯れるような状態になった。

 女性4人のクラシックユニット、1966カルテットである。

 メンバーは、松浦梨沙(ヴァイオリン・写真中央上)、花井悠希(ヴァイオリン・同中央下)、林はるか(チェロ・同右から1人目)、江頭美保(ピアノ・同左から1人目)。2010年に『ノルウェーの森~ザ・ビートルズ・クラシックス』でデビューした。

 「1966」はもちろん彼女たちの生まれた年ではない。ビートルズの日本公演が行われた年だ。

「クラシックでビートルズ・ナンバーをやるぞ!」

 4人はある日突然プロデューサーに命じられた(デビュー時のピアニストは江頭ではなかった)。4人とも20代。ビートルズ・ナンバーはリアルタイムで聴いていない。しかも、初対面。

「私たち、どうすればいいの?」

 顔を見合わせた。

「とにかく、それぞれビートルズのアルバムを聴きまくりました。そしたら、知っている曲ばかりでびっくり」(松浦)

「『イエスタデイ』と『レット・イット・ビー』は中学生の時に音楽の教科書に載っていたので、演奏したこともありました」(林)

 デビューアルバムでは「ノルウェーの森」「イエスタデイ」「抱きしめたい」「ストロベリー・フィールズ・フォーエヴァー」「フール・オン・ザ・ヒル」などを演奏した。

 その後、『ウィ・ウィル・ロック・ユー~クイーン・クラシックス』、『スリラー~マイケル・ジャクソン・クラシックス』をリリース。2013年には再びビートルズのアルバム『ヘルプ!~ビートルズ・クラスックス』を発表した。ここでは、ビートルズ初期の名作『ヘルプ!』のナンバーを中心に演奏している。

 そして2014年、いよいよビートルズの最高傑作を手掛けることに。

「ロンドンのアビイ・ロード・スタジオで『アビイ・ロード』の曲をレコーディングしよう!」

 4人にとっては大きなチャレンジである。

 『アビイ・ロード』といえば、音楽ファンでなくても誰もが知るビートルズの代表作。バンドのキャリアの最後に、英ロンドンの名門、アビイ・ロード・スタジオでレコーディングされた(発売は『レット・イット・ビー』が最後)。

 空中分解状態で解散を意識していたメンバー4人が、「最後にもう一度力を合わせて最高の作品を作ろう」と言って、本当に最高傑作を作ってしまったというアルバムだ。

 『アビイ・ロード』には「カム・トゥゲザー」「サムシング」などが収録されているが、圧巻なのはレコード時代のB面後半に収められたメドレー。未完成でストックされていたフレーズの数々をつなぎ合わせて、ポール・マッカートニーが極上の組曲を作り上げた。

 それらのナンバーをアレンジし直して4つの楽章に仕上げたのが、1966カルテットの曲「アビイ・ロード・ソナタ」である。

 そして、この曲をタイトルにしたアルバム『アビイ・ロード・ソナタ』(6月18日発売)のレコーディングのために、4人はロンドンへ向かった。

 アビイ・ロード・スタジオの第2スタジオでレコーディング、スタジオ前の有名な横断歩道でジャケットを撮影し、その後はビートルズが結成された港町、リバプールへ。デビュー前の彼らが出演していた名門、キャバン・クラブで演奏。地元のファンの大合唱に包まれた。

 さて、明日からは1966カルテット1人1人を紹介していこう。まずは、リーダーでヴァイオリニストの松浦梨沙からだ。

『アビイ・ロード・ソナタ』

2014年6月18日発売
CD 3,000円+税 COCQ-85069
http://columbia.jp/artist-info/1966quartet/COCQ-85069.html

  • 1966 QUARTET(1966カルテット)

    2010年に結成したクラシックをベースに、ビートルズをはじめ洋楽のカバーを演奏する女性カルテット。メンバーは、松浦梨沙(ヴァイオリン)、花井悠希(ヴァイオリン)、林はるか(チェロ)、江頭美保(ピアノ)。ビートルズが来日した1966年をカルテット名にし、『ノルウェーの森~ザ・ビートルズ・クラシックス』でCDデビュー。『ウィ・ウィル・ロック・ユー~クイーン・クラシックス』『スリラー~マイケル・ジャクソン・クラシックス』『ヘルプ!~ビートルズ・クラシックス』をリリース。最新アルバムは、6月18日発売の『アビイ・ロード・ソナタ』(日本コロムビア ¥3,000+税)。
    6月17日(火)に『アビイ・ロード・ソナタ』発売記念コンサートを東京・王子ホールで開催。その後、「ビートルズ・クラシックス・コンサート」を7月10日(木)りゅーとぴあ新潟市民芸術文化会館コンサートホール、12日(土)東京・東大和市文化会館ハミングホール、24日(木)北海道・歌登フォレストピアホールで開催。8月31日(日)には大阪・新歌舞伎座の「ビートルズ・クラシックス&魅惑のラヴ・サウンズ」コンサートに参加。
    http://columbia.jp/1966quartet/

  • 取材・文:神舘和典

    1962年東京都出身。音楽を中心に書籍や雑誌のコラムを執筆。ミュージシャンのインタビューは年間約70本。コンサート取材は年間約80本。1998年~2000年はニューヨークを拠点にその当時生存したジャズミュージシャンをほぼインタビューした。『ジャズの鉄板50枚+α』『音楽ライターが、書けなかった話』(以上新潮新書)、『25人の偉大なジャズメンが語る名盤・名言・名演奏』(幻冬舎新書)、『上原ひろみ サマーレインの彼方』(幻冬舎文庫)など著書多数。

    新潮新書 http://www.shinchosha.co.jp/writer/1456/
    幻冬舎新書 http://www.gentosha.co.jp/book/b4920.html

撮影:萩庭桂太