アルバム『アビイ・ロード・ソナタ』には江頭美保(写真左)の見せ場は多い。4人のメンバーの中でただ一人、ビートルズが演奏する楽器を担当しているのが彼女だからだ。

 ユニットでの役柄はジョージ・ハリスン。『アビイ・ロード・ソナタ』のジェケットでは、デニムの上下で撮影した。しかし、演奏はポール・マッカートニーのピアノのフレーズをイメージさせる。

 アルバムには、ポールのピアノが印象的な「レディ・マドンナ」が収録されているが、イントロはまるでビートルズに聴こえる。ちょっとラグタイム調の、レトロな響きなのだ。

「『レディ・マドンナ』は、アビイ・ロード・スタジオにあったスタンウェイのアップライトピアノで演奏しました。オリジナルでポールが実際に弾いたピアノです」

 「アビイ・ロード・ソナタ」のエンディング、「キャリー・ザット・ウェイト」から引き継いで「ジ・エンド」が始まる連打もポールを感じさせる。

「あそこはそれほどオリジナルを意識はしませんでしたけれど、自然に近づいてしまったのかもしれません」

 江頭は4歳からピアノを始めた。武蔵野音楽大学を卒業、同大学特修科を修了した。大6回ブルクハルト国際音楽コンクール、第12回長江杯国際音楽コンクールなどで入賞。

 1966カルテットには2012年の『スリラー~マイケル・ジャクソン・クラシック』から参加した。

 江頭が好きなビートルズ・ナンバーは「ロング・アンド・ワインディング・ロード」と「アクロス・ザ・ユニバース」。どちらも名エンジニアのフィル・スペクターがストリングスとコーラスを加えてさらに壮大にしたオーケストラに近いバラードだ。「ロング・アンド・ワインディング・ロード」は映画『レット・イット・ビー』で、ポールがピアノを弾く姿が印象深い。

「1966カルテットのオーディションを受けたきっかけが『ロング・アンド・ワインディング・ロード』でした。私が加入する前の演奏を聴いて、参加したい! と思ったんです」

 「アクロス・ザ・ユニバース」での、江頭のピアノの魅力はスペース感覚だろう。一音一音の間のかすかな空白が実に心地いい。

 そして、この曲をステージで演奏する時の江頭は、時折苦悶の表情を見せる。上品なクラシック女子が見せる艶めかしさに、ステージ前のオヤジたちはため息を抑えられない。

 6月17日に東京・王子ホールで行われる『アビイ・ロード・ソナタ』発売記念コンサート(下記参照)では耳と目の両方で楽しませてくれるはずだ。

『アビイ・ロード・ソナタ』

2014年6月18日発売
CD 3,000円+税 COCQ-85069
http://columbia.jp/artist-info/1966quartet/COCQ-85069.html

  • 1966 QUARTET(1966カルテット)

    2010年に結成したクラシックをベースに、ビートルズをはじめ洋楽のカバーを演奏する女性カルテット。メンバーは、松浦梨沙(ヴァイオリン)、花井悠希(ヴァイオリン)、林はるか(チェロ)、江頭美保(ピアノ)。ビートルズが来日した1966年をカルテット名にし、『ノルウェーの森~ザ・ビートルズ・クラシックス』でCDデビュー。『ウィ・ウィル・ロック・ユー~クイーン・クラシックス』『スリラー~マイケル・ジャクソン・クラシックス』『ヘルプ!~ビートルズ・クラシックス』をリリース。最新アルバムは、6月18日発売の『アビイ・ロード・ソナタ』(日本コロムビア ¥3,000+税)。
    6月17日(火)に『アビイ・ロード・ソナタ』発売記念コンサートを東京・王子ホールで開催。その後、「ビートルズ・クラシックス・コンサート」を7月10日(木)りゅーとぴあ新潟市民芸術文化会館コンサートホール、12日(土)東京・東大和市文化会館ハミングホール、24日(木)北海道・歌登フォレストピアホールで開催。8月31日(日)には大阪・新歌舞伎座の「ビートルズ・クラシックス&魅惑のラヴ・サウンズ」コンサートに参加。
    http://columbia.jp/1966quartet/

  • 取材・文:神舘和典

    1962年東京都出身。音楽を中心に書籍や雑誌のコラムを執筆。ミュージシャンのインタビューは年間約70本。コンサート取材は年間約80本。1998年~2000年はニューヨークを拠点にその当時生存したジャズミュージシャンをほぼインタビューした。『ジャズの鉄板50枚+α』『音楽ライターが、書けなかった話』(以上新潮新書)、『25人の偉大なジャズメンが語る名盤・名言・名演奏』(幻冬舎新書)、『上原ひろみ サマーレインの彼方』(幻冬舎文庫)など著書多数。

    新潮新書 http://www.shinchosha.co.jp/writer/1456/
    幻冬舎新書 http://www.gentosha.co.jp/book/b4920.html

撮影:萩庭桂太