東京の武蔵野エリア、閑静な住宅街にその白亜のスタジオはあった。

 シンガーソングライターで音楽プロデューサーの角松敏生が3年前に新築したプライベートスタジオである。

 エントランスから廊下を進むと、2台のコンソールとキーボードをはじめとした機材がぎっしりと置かれている部屋に行きつく。キーボードは1980年代に一世を風靡したYAMAHA DX7をはじめ、懐かしいアナログシンセサイザーも。

 初期のシンセサイザーは個体差があり、その楽器だけのサウンドを持っていた。

 メインのスタジオの右手にはヴォーカルとギターを録音するブースもある。上階は自宅スペースだ。

「今の環境になってから、やっぱり音作りに集中できるようになりましたね」

 コンソール前の座り慣れたチェアでギターを抱える角松は50代。

 しかし、ヒットを連発した1980年代と佇まいはほとんど変わっていない。

 体形もスリムなまま。ジーンズのウエストは今も27インチ。男性用でこのサイズを探すのが大変だという。

「リビングから階段を降りるだけでスタジオがあって、すぐに音楽モードになれるのはありがたいですね」

 年齢とキャリアを重ね、音作りがますます楽しくなった。

「音楽家として飯を食っていてね、楽しく仕事しなくちゃだめだな、作る自分が楽しくなくちゃいい作品はできないな、という思いはどんどん強くなっていますね。要するに自分の心が盛り上がる音楽をやりたい」

 今の時代だからこそ作れる音楽がある。

「レコードやCDがガンガン売れていた1980~90年代は好きなことをすると怒られたんですよ。レコード会社は少しでもたくさん売りたい、もうけたい気持ちが今よりも強かったのでね。でも、以前のようにCDが売れなくなってきて、それ自体はいいことではないけれど、その代り自分が作りたい作品、僕の音楽をずっと聴き続けてくれているリスナーに喜んでもらえる作品を作れるようになっている気はします」

 そんな状況の中、角松はこのプライベートスタジオで新作を作った。

 タイトルは『THE MOMENT』。

 20分を超える曲を含む大作である。

『THE MOMENT』

発売中(2014年3月19日発売)
CD 3,100円+税 BVCL-30017
http://www.sonymusic.co.jp/artist/ToshikiKadomatsu/discography/BVCL-30017

  • 角松敏生(かどまつ・としき)

    シンガーソングライター、音楽プロデューサー。1960年東京都出身。81年にシングル「YOKOHAMA Twilight Time」とアルバム『SEA BLEEZE』でデビュー。『ON THE CITY SHORE』『TOUCH AND GO』『BEFORE THE DAYLIGHT』『REASONS FOR THOUSAND LOVERS』『あるがままに』など多くのアルバムをヒットさせる。プロデューサーとしても活躍。長万部太郎としてAGHARTA名義で歌った「ILE AIYE~WAになっておどろう」、杏里の『Bi・Ki・Ni』『TIMELY!!』『COOOL』、中山美穂の『CATCH THE NITE』がヒット。最新作は2014年3月19日にリリースした『THE MOMENT』(アリオラジャパン 3,100+税)。5月9日から全国14都市16公演のツアー「performance 2014 “THE MOMENT”」をスタートする。7月19日、20日には軽井沢大賀ホールで「Tripod V」ライヴも行う。
    http://www.toshiki-kadomatsu.jp/

  • 取材・文:神舘和典

    1962年東京都出身。音楽を中心に書籍や雑誌のコラムを執筆。ミュージシャンのインタビューは年間約70本。コンサート取材は年間約80本。1998年~2000年はニューヨークを拠点にその当時生存したジャズミュージシャンをほぼインタビューした。『ジャズの鉄板50枚+α』『音楽ライターが、書けなかった話』(以上新潮新書)、『25人の偉大なジャズメンが語る名盤・名言・名演奏』(幻冬舎新書)、『上原ひろみ サマーレインの彼方』(幻冬舎文庫)など著書多数。2002年には角松敏生著『モノローグ』(毎日新聞社)をインタビュー構成。

    新潮新書 http://www.shinchosha.co.jp/writer/1456/
    幻冬舎新書 http://www.gentosha.co.jp/book/b4920.html

撮影:萩庭桂太