「18歳、19歳の頃、助手席に女の子を乗せて、AORを聴きながら、夕陽を浴びて海辺をドライヴしたでしょ? あんなふうに僕の音楽も聴いてもらえたら嬉しいですね」

 角松敏生はちょっと遠くを見るように目を細めた。

「でも、そういうのって、今思うと自分でもすごく滑稽ですよね。無理して。背伸びしちゃって。あの頃聴いていたボズ・スキャッグスとか、スティーリー・ダンの歌詞って、実はまったくおしゃれじゃなかったし、ロマンティックでもなかった。社会への風刺とかですから。すごくシリアスなことを歌っていること、ずっと後になって英語が理解できるようになって、ちょっと恥ずかしくなりました」

 英語が理解できなかったからこそ、海辺のドライヴでおしゃれな気持ちになれたわけだ。

 それに近いことを日本語詞でもやりたかった。

「だからね、新しいアルバム『THE MOMENT』では、できるだけ歌詞に具体的な意味を持たせなかったんです」

 「風」「海」「波」「夜」「いにしえ」「光」「雲」「星」……。

 このような世の中の誰もが知る共通の言葉が歌詞の中にちりばめられている。

「歌詞で世界を限定しなければ、聴いた人が自分で物語を作ったり、頭の中に風景を描けたりする。そうやって聴いてほしいんです。僕が10代の時に意味もわからず英語詞の音楽を聴いてデートをしていたように、イマジネーションを膨らませてね」

『THE MOMENT』

発売中(2014年3月19日発売)
CD 3,100円+税 BVCL-30017
http://www.sonymusic.co.jp/artist/ToshikiKadomatsu/discography/BVCL-30017

  • 角松敏生(かどまつ・としき)

    シンガーソングライター、音楽プロデューサー。1960年東京都出身。81年にシングル「YOKOHAMA Twilight Time」とアルバム『SEA BLEEZE』でデビュー。『ON THE CITY SHORE』『TOUCH AND GO』『BEFORE THE DAYLIGHT』『REASONS FOR THOUSAND LOVERS』『あるがままに』など多くのアルバムをヒットさせる。プロデューサーとしても活躍。長万部太郎としてAGHARTA名義で歌った「ILE AIYE~WAになっておどろう」、杏里の『Bi・Ki・Ni』『TIMELY!!』『COOOL』、中山美穂の『CATCH THE NITE』がヒット。最新作は2014年3月19日にリリースした『THE MOMENT』(アリオラジャパン 3,100+税)。5月9日から全国14都市16公演のツアー「performance 2014 “THE MOMENT”」をスタートする。7月19日、20日には軽井沢大賀ホールで「Tripod V」ライヴも行う。
    http://www.toshiki-kadomatsu.jp/

  • 取材・文:神舘和典

    1962年東京都出身。音楽を中心に書籍や雑誌のコラムを執筆。ミュージシャンのインタビューは年間約70本。コンサート取材は年間約80本。1998年~2000年はニューヨークを拠点にその当時生存したジャズミュージシャンをほぼインタビューした。『ジャズの鉄板50枚+α』『音楽ライターが、書けなかった話』(以上新潮新書)、『25人の偉大なジャズメンが語る名盤・名言・名演奏』(幻冬舎新書)、『上原ひろみ サマーレインの彼方』(幻冬舎文庫)など著書多数。2002年には角松敏生著『モノローグ』(毎日新聞社)をインタビュー構成。

    新潮新書 http://www.shinchosha.co.jp/writer/1456/
    幻冬舎新書 http://www.gentosha.co.jp/book/b4920.html

撮影:萩庭桂太