ギターはソウルフルに。歌は艶やかに。
角松敏生
- Magazine ID: 1420
- Posted: 2014.04.11
角松敏生のデビューは1981年。音楽家生活も30年を超えた。
角松のファンは“思い入れ度”が高いのが特徴だ。
20年、30年、この人の音楽にとことんついていくというタイプが大半を占める。ステージにいるアーティストと客席に集まるファンがともに年齢を重ね人生を重ねていく。ファンが離れていかない理由について、本人はどう感じているのだろう――。
「たぶん、僕が同じことをやらないからではないでしょうか。たとえばR&B系の歌で売れると、ずっとR&Bをやり続ける人、いますよね? 同じテイストのフュージョンを何十年もやり続ける人も。それはそれで深くなっていくのかもしれないけれど、僕の場合は、作品毎にリスナーの意表をつくことをやってきました。それがかえってよかったのかもしれません」
ジャズフュージョンをやり、沖縄の音楽をやり、アイヌの音楽をやり、プログレのテイストもやってきた。
「おそらく次の作品でリスナーが望んでいるテイストがあって、でも僕は違う音楽を提示する。リスナーは、えっ!? と思うけれど、聴いているうちに好きになってくれる。そのくり返しだと思っています。でね、音楽のアプローチは変わっても、僕は僕なんですよ。僕の声やギターの響きは急には変わりません」
1980年代の終わりから90年代にかけて、角松には“活動凍結期”があった。
「音楽に煮詰まって、何をやっていいのか、わからなくなっちゃったんです。同時にプライベートでもいろいろトラブルがあって、悪循環で、ステージに立つのが耐えられなくなった。この仕事をしていながら、人前で歌うのすら恥ずかしくなった。今思うと、うつだったんでしょうね」
音楽をやめて喫茶店をやろう。
本気で考えた。
学生時代に喫茶店でアルバイトをして、強い適性を感じていたのだ。
「でも活動を休止したら、プロデュースの依頼が次々ときたんですよ。角松はヒマにしているらしい、と思ったんでしょうね。あまり気は進まないまま、それでも、人前に出なくていいなら、歌わなくていいなら、歌詞を書かなくていいなら、という条件で仕事を受けました」
結局、約6年間、スタジオにこもって音楽を作り続けた。
「ふり返ると、20代から30代にかけて表舞台を避けてじっくりと音楽作りに取り組んだことが、ミュージシャンとしての体質を強くした気はします。あの6年で機材やスタジオや楽器についての知識がものすごく豊かになりましたから」
それが最新アルバム『THE MOMENT』にも活かされている。
「僕のギター、いよいよいい音で鳴るようになってきたと思うんですよ。実は、ずっと一本調子の演奏でね。自分でもそれが気になっていました。でも、最近はちょっと、ソウルフルになってきた。声もね、自分でも艶を感じるようになりました。自分で演奏したり歌ったりして、おっ! と思って、悩みもあって、また、おっ! と思えて。そのくり返しですね」
『THE MOMENT』
発売中(2014年3月19日発売)
CD 3,100円+税 BVCL-30017
http://www.sonymusic.co.jp/artist/ToshikiKadomatsu/discography/BVCL-30017
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角松敏生(かどまつ・としき)
シンガーソングライター、音楽プロデューサー。1960年東京都出身。81年にシングル「YOKOHAMA Twilight Time」とアルバム『SEA BLEEZE』でデビュー。『ON THE CITY SHORE』『TOUCH AND GO』『BEFORE THE DAYLIGHT』『REASONS FOR THOUSAND LOVERS』『あるがままに』など多くのアルバムをヒットさせる。プロデューサーとしても活躍。長万部太郎としてAGHARTA名義で歌った「ILE AIYE~WAになっておどろう」、杏里の『Bi・Ki・Ni』『TIMELY!!』『COOOL』、中山美穂の『CATCH THE NITE』がヒット。最新作は2014年3月19日にリリースした『THE MOMENT』(アリオラジャパン 3,100+税)。5月9日から全国14都市16公演のツアー「performance 2014 “THE MOMENT”」をスタートする。7月19日、20日には軽井沢大賀ホールで「Tripod V」ライヴも行う。
http://www.toshiki-kadomatsu.jp/ -
取材・文:神舘和典
1962年東京都出身。音楽を中心に書籍や雑誌のコラムを執筆。ミュージシャンのインタビューは年間約70本。コンサート取材は年間約80本。1998年~2000年はニューヨークを拠点にその当時生存したジャズミュージシャンをほぼインタビューした。『ジャズの鉄板50枚+α』『音楽ライターが、書けなかった話』(以上新潮新書)、『25人の偉大なジャズメンが語る名盤・名言・名演奏』(幻冬舎新書)、『上原ひろみ サマーレインの彼方』(幻冬舎文庫)など著書多数。2002年には角松敏生著『モノローグ』(毎日新聞社)をインタビュー構成。
新潮新書 http://www.shinchosha.co.jp/writer/1456/
幻冬舎新書 http://www.gentosha.co.jp/book/b4920.html
撮影:萩庭桂太