吉俣良さんと言えば、NHKの大河ドラマ『篤姫』や『江~姫たちの戦国~』で日本全国にその名を知らしめた作曲家であり、編曲家である。

 そんなすごい人のことを、ずいぶん前から萩庭桂太は友達だと言って憚らなかった。ウソだと思っていたが、昨年末、Tokyo Photo Messengersというハギニワが遊びでやっているUstreamにゲストで来てくださった。(http://www.ustream.tv/recorded/20640739

 私はやっと二人が友達だというのを信用できた。信用できた証拠に、番組内で酔っぱらってため口をきいてしまったのであった。……すみません。後編は見なくていいです。

 ……と、先日、こんなことがあった。

 撮影に現れたハギニワは上機嫌で「薬師丸ひろ子が歌うのを生で見て来た」というのである。

 どうやら友達の吉俣良さんが薬師丸ひろ子さんの新譜『時の扉』を全曲編曲され、ご一緒にある歌番組に出演されたのを観覧してきたらしい。吉俣さんに確かめると、こちらも上機嫌で、なんと今回、薬師丸ひろ子さんご自身からのオファーだったという話を明かしてくれた。

「ちょっと信じられないくらい、うれしい感想のメールをいただいたんですよ」

 何が書いてあったのかはわからないが、吉俣さんは天にも昇らんかのような笑顔であった。

『時の扉』を聴いてみた。

 自身のオリジナルは「セーラー服と機関銃」だけ。あとはサトウハチローさんが作詞したいわゆる唱歌や、中村八大さんが作曲した「黄昏のビギン」などが収録されている。吉俣さんの仕事は、穏やかでシンプルな、メロディを大切にした編曲だ。通して聴くと、まるで一人の少女がそおっと大人になっていくミュージカルのような気持ちがしてきた。その世界観の中から、薬師丸ひろ子さんの透き通る高音がこちらに一心に語りかけてくるような。

 薬師丸さんが、吉俣さんに依頼したかった理由が少しわかった気がした。

 彼女はきっとこの世界観に包まれてみたかったのだと思う。

 では、その吉俣良の世界観とはどんなもので、何から出来上がっているのだろう。私は今回はコーヒーをはさんで、吉俣良さんと向かい合った。

  • 出演:吉俣良

    作曲家、編曲家。1959年鹿児島県生まれ。横浜市立大学在学中より有名アーティストのステージメンバーとして活動しており、84年から92年までロック・バンド「リボルバー」のキーボードプレイヤーを担当。97年からまずは民放ドラマのサウンドトラックを手がけ、NHK大河ドラマ『篤姫』(2008)『江~姫たちの戦国~』(11)の作曲で一躍脚光を浴びる。映画『冷静と情熱のあいだ』のサウンドトラックが韓国などで大人気になり、現在は海外での活動も多い。14年も映像、舞台、自身のライブなど多方面での活躍が期待されている。
    http://www.yoshimataryo.com/

  • 取材・文:森 綾

    1964年大阪生まれ。ラジオDJ、スポーツニッポン文化部記者、FM802編成部を経て、92年に上京、フリーランスに。雑誌、新聞を中心に発表した2000人以上のインタビュー歴をもち、構成したタレント本多数。自著には女性の生き方をテーマにしたものが多く『キティの涙』(集英社)、『マルイチ』(マガジンハウス)、『大阪の女はえらい』(光文社知恵の森文庫)、映画『音楽人』の原作など。
    ブログ『森綾のおとなあやや日記』 http://blogs.yahoo.co.jp/dtjwy810

ヘアメイク:ACQUA tua 岡元コースケ http://acqua.co.jp
撮影:萩庭桂太