吉俣良さんがサウンドトラックを初めて手がけたのは、1996年のフジテレビ『おいしい関係』でのことだったという。

「アーティストのレコーディングのときにディレクターから『何かやりたいことない?』と聞かれて『ドラマのサントラ』と答えたんです。そうしたらそれを伝え聞いたテレビ局のプロデューサーからオファーが来ました。言ったことって叶うんだな、と思った。僕の場合、そういうことが5年毎くらいに起こるんですよ」

 彼の音楽がドラマにビビッドな色を加え、人気の一端を担うという現象が起きていく。数曲単位の参加が続いたが『きらきらひかる』では全曲を担当。『眠れる森』、『Dr.コトー診療所』、『がんばっていきまっしょい』……ああ、あのドラマも、あのドラマもそうだったの、と、枚挙にいとまがない。

「次は朝ドラかなあと言っていたら、とうとうNHKから話が来たんです」

 それが2003年の『こころ』だった。朝ドラとくれば、次は大河ドラマだろう。

 しかしそれまでの大河ドラマはいわゆる「大御所」の作曲家ばかりだった。

「大河は僕以前と僕以降で、作曲家が変わりましたからね。いゆわる音大出身の方々がやっていたんですよ。筆文字で名前書かれるのが似合う人(笑)。いいんだよねえ、あの筆文字が。民放のヒットドラマの音楽を手がけた僕に依頼してちゃんとできたことで『なんだ、そういう人でもできるんだ』ということになったんだと思います。ちなみに僕が担当した2つの大河ドラマは、テロップが筆文字ではなかったんですけどね……」

 笑いながら言うが、1年間続く大河ドラマの全曲を担当するというプレッシャーは半端ではないものだったようだ。

「テロップと音楽のみで2分45秒、音楽しかかからないオープニングって、大河ドラマしかないんですよ。曲数もトータルで70~80曲になりますからね。もちろん、1年間にそれ以上の数のいろんな曲を書いているんですけれど、ひとつのドラマでその数を書くというつらさがあるんですよね。そして何よりも、日本全国の全世代の人が注目しているドラマでしょう。いろんな意味で、大河ドラマをやるという以上のプレッシャーはそうそうないんです」

 絶賛された『篤姫』の後でも、『江』の話が来たときには円形脱毛症になってしまったほどだったという。

 細部にまで徹底的に気を砕くからだろう。気さくな話ぶりも、全方位的に他人に気を遣う彼のやさしさの現れと見た。

  • 出演:吉俣良

    作曲家、編曲家。1959年鹿児島県生まれ。横浜市立大学在学中より有名アーティストのステージメンバーとして活動しており、84年から92年までロック・バンド「リボルバー」のキーボードプレイヤーを担当。97年からまずは民放ドラマのサウンドトラックを手がけ、NHK大河ドラマ『篤姫』(2008)『江~姫たちの戦国~』(11)の作曲で一躍脚光を浴びる。映画『冷静と情熱のあいだ』のサウンドトラックが韓国などで大人気になり、現在は海外での活動も多い。14年も映像、舞台、自身のライブなど多方面での活躍が期待されている。
    http://www.yoshimataryo.com/

  • 取材・文:森 綾

    1964年大阪生まれ。ラジオDJ、スポーツニッポン文化部記者、FM802編成部を経て、92年に上京、フリーランスに。雑誌、新聞を中心に発表した2000人以上のインタビュー歴をもち、構成したタレント本多数。自著には女性の生き方をテーマにしたものが多く『キティの涙』(集英社)、『マルイチ』(マガジンハウス)、『大阪の女はえらい』(光文社知恵の森文庫)、映画『音楽人』の原作など。
    ブログ『森綾のおとなあやや日記』 http://blogs.yahoo.co.jp/dtjwy810

ヘアメイク:ACQUA tua 岡元コースケ http://acqua.co.jp
撮影協力:銀座YAMAHAホール http://www.yamaha.co.jp/yamahaginza/hall/
アコースティック楽器に最適な音響と環境を兼ね備えた最新鋭の設備をもつホール。吉俣良も度々演奏している。

撮影:萩庭桂太