まるで神ワザ
蒼山日菜
- Magazine ID: 1541
- Posted: 2013.08.19
「誰でも自分の好きな人を取材していい」
今回、初めてこのコーナーを担当させていただくことになったのは、このひとことが決め手だった。
自分が今、いちばん話を聞きに行きたい人……。
そう、考えたときに真先に頭に浮かんだのが切り絵画家の蒼山日菜さんだ。蒼山さんは国際的に活躍するアーティスト。欧米の美術館やギャラリーに作品が展示されているだけでなく、「シルク・ドゥ・ソレイユ」のポスターや、iPhoneなどのスマートフォンケースにも、蒼山さんの切り絵が使われている。
彼女の切り絵を初めて見た人は、誰もが例外なく驚くだろう。なぜならば、平面に置かれたその作品は極細の黒いペンで描かれた細密画にしか見えないからだ。「まるでレース刺繍のよう。こんなに緻密な線をよく描けるなぁ」と、まずビックリ。そしてそれがフワッと浮き上がり、ハサミで切り抜いた絵だとわかった瞬間に、「マジですか?」と、2度ビックリしてしまう。なぜ、こんなに細かい線がハサミで切れるのか。それはもう神ワザの領域と言っていい。
今にも飛び立ちそうな美しい蝶、楽しげに歌う妖精たち、そして物語の中に迷い込んだかのような幻想的な風景の数々。ヴォルテールの小説の一節を切り抜いた「流れるように文字が連なる」作品もある。しかも、その魅力は単に“細かさ”だけにとどまらない。躍動感、もしくは生命感というべきか。どの作品からも、見るものに何かを訴えかけるような力強いエネルギーが放たれているのだ。
「私の切り絵は、まったくの自己流です。下絵もすべてオリジナル。美術学校に通ったこともなければ、絵を習ったこともありません」と、語る蒼山さん。
では、いったいどんな経緯で、これほど見事に紙とハサミを操るようになったのだろう?
それは、22歳のときに、蒼山さんが初めてフランスを訪れたときから始まった。
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出演:蒼山日菜
1970年横浜市生まれ。現在はフランス在住。2000年に切り絵に出会い、趣味としてスタート。その後、オリジナルの世界観を追求した作品を発表し続け、08年にはスイスのシャルメ美術館で開催された第6回トリエンナール・ペーパーアート・インターナショナル展覧会に出展し、アジア人初の受賞となった。その後も多数の賞を受賞し、「Newsweek」誌にて「世界が尊敬する日本人100人」にも登録される。オスカープロモーション所属。
公式サイト http://aoyamahina.com/
公式ブログ「a lace KIRIE」 http://ameblo.jp/hinaaoyama/ -
取材・文:内山靖子
ライター。成城大学文芸学部芸術学科卒。在学中よりフリーのライターとして執筆を開始。専門は人物インタビュー、書評、女性の生き方や健康に関するルポなど。現在は、『STORY』『HERS』(ともに光文社)、『婦人公論』(中央公論新社)などで執筆中。
撮影:萩庭桂太