「以前聴いていただいたホセのこと、覚えていますか。実は今度、ブルーノートに移籍して初めてのアルバムを出すんです」

 ラジオの制作会社にいるマリちゃんからそんなメールをもらって驚いた。なんと、彼女は今、ホセ・ジェイムズの日本でのエージェントを引き受けているという。初めて恵比寿のリキッドルームで彼のライブを聴いたのはもう4年前のことだ。ちょうど彼が『The Dreamer』というアルバムを出した頃である。

 それはそれは衝撃的なライブだった。彼は「Moanin’」 のようなジャズのスタンダードを、実にオーソドックスにクールに歌う。しかし見た目は長い四肢をゆるく動かすラッパーのような風情なのだ。しかも、淡々と歌っているのにその底にある熱いものが強くこちらに押し寄せてくる。そのギャップに私はすっかり魅了されてしまった。

 そんな彼が老舗のジャズ専門レーベルであるブルーノートからアルバムを出すというのも、とても興味深い。

 撮影は渋谷を中心に行うことになった。ホセが宿泊している桜丘のホテルに集合すると、彼は大きなボストンバッグをもって現れた。「衣装がいろいろ入っている、と言っています」。マリちゃんが通訳してくれる。事前に、セルフスタイリングで、とお願いしたところ、彼は自腹でいろいろと服を買ってきてくれたと言うのである。なんていい人なんだ。

「僕は、ユナイテッドアローズが大好きなんです。サイズがちょうどいいし、日本でしか服を買いません」。そう言って、わざわざタグを見せてくれた。上品な薄いグレーのカーディガンをきちんと着ている。

「日本人の男性のファッションセンスはいいと思う。みんな仕立てのいい、サイズの合ったスーツをこぎれいに着ていますね」

 着替える毎に脱いだものを丁寧に自分でたたみ、かばんに入れる姿が印象的である。

「父がパナマ、母はアイルランド人です。そしてぼくは、……たぶん前世は日本人」

 ホセが微笑んで言った。我々はその言葉に笑いながらも、取材するうちにだんだん「そうかもしれない」と思い始めていた。

  • 出演:ホセ・ジェイムズ

    アメリカ、ミネソタ州生まれ。高校まではヒップホップにはまっていたが、ラジオのジャズステーションに感化され、ジャズ・シンガーを志す。NYのニュースクール大学に通う。2006年、ロンドンで行われた国際ジャズコンペティションに参加。名DJ/プロデューサーのジャイルス・ピーターソンに出会い、07年、ブラウンズレーベルと契約。08年に『The Dreamer』でデビュー。1月16日、EMI(ブルーノートレーベル)から『No Beginning No End』が日本で発売に。2月14、15日はビルボードライヴ東京でのライブも予定されている。
    http://emimusic.jp/artist/josejames/
    http://www.josejamesmusic.com

  • 取材・文:森 綾

    大阪市生まれ。スポニチ大阪文化部記者、FM802開局時の編成部員を経て、92年に上京後、現在に至るまで1500人以上の有名人のインタビューを手がける。自著には『マルイチ』(マガジンハウス)、『キティの涙』(集英社)(台湾版は『KITTY的眼涙』布克文化)など、女性の生き方についてのノンフィクション、エッセイが多い。タレント本のプロデュースも多く、ゲッターズ飯田の『ボーダーを着る女は95%モテない』『チョココロネが好きな女は95%エロい』(マガジンハウス)がヒット中。
    ブログ「森綾のおとなあやや日記」 http://blogs.yahoo.co.jp/dtjwy810

撮影:萩庭桂太