1月16日、ホセ・ジェイムズはEMI(ブルーノート)から『No Beginning  No End』をリリースする。

「とにかく、ジャンルからも自分自身のこれまでのやり方からも解き放たれて、自由に表現したかったんです。過去の3年に出したどのアルバムよりもお金をかけ、多くの人との出会いがあってできたアルバムなんです。今ここにいるぼくそのもののようなアルバムだと言えます」

 父がコルトレーンで、母がビリー・ホリディだと聞かされていたので、ジャンルを超えたい、という言葉が意外に聞こえた。それはジャズという音楽を打ち破りたいのか、それとも何か他のものを持ってきたいのか。

「両方あります。ジャズを超えたいという想いと、もっともっと考えられないほど大きな何かをジャズに加えたいという想いと。なぜならばジャズは文化や音楽のすべての要素を吸収しているし、もっといえばぼく自身もそこにあるからです」

 新しい、もっと大きいジャズへ。それを彼はこんなふうに解釈する。

「たとえばスタンダードジャズは、もともとミュージカルのために書かれたものが多い。だとすると、恋愛のことを書くとしても、わかりやすくきれいにまとめられた詞が多い。でも、その恋愛は現代の恋愛とは違う。現代の恋愛はもっと複雑で、多様でしょう? それを表現できるような音楽が必要だと思うんです。それがジャズなのか、そうではないのかはわからないけれど、そこにチャレンジしてみたい」

 そういう思いを託して今回のアルバムは作られた。20人以上のミュージシャンが集まる大きなプロジェクトとして。

「一曲一曲で何かを伝えるというよりも、1枚のアルバムで一貫したテーマを伝えられるというものにしたかったんです」

 名門・ブルーノートからのリリースにも深い思い入れがある。

「夢が実現したという感じです。何と言っても歴史があり、パワフルなレーベルですから。光栄なことです。元いたブラウンズウッドの主宰者であるジャイルス・ピーターソンもとても喜んでくれました。ジャズは明らかに新しい時代を迎えています。ヒップホップ、グランジ、インディーズを聴いて育った僕たちの後の世代のジャズはもっともっと変わっていくことでしょう。ただ、クラシックと同様に、ジャズは演奏にも歌にも高度な技術が必要な音楽。そしていつの時代も革新的な心があるべきです。そしてクールだということ。その3つは変わらないのではないでしょうか」

 日本贔屓な彼は、ジャズと日本語の不思議な共通点を指摘してくれた。

「日本語はわからないけれど、たとえばカフェでカップルが話をしていたら、その中身はなんとなくわかることがあります。日本語のもつ音のニュアンス、雰囲気といったものがビバップやブラックミュージックにどこか共通するような気がするんです。日本って、どんなレストランに行ってもジャズが流れていたりするじゃないですか。ナショナル・ミュージックじゃないのに、もはやナショナル・ミュージックになりつつあるのでは」

 そう語って、口元だけで笑ってみせる彼を見ていると、どこかとても近しい感じがした。まるで同じ小説を読んで同じ場所に心打たれた人に出会ったような。それを情感、と呼べるとしたら、彼は間違いなく、国境を越えてつながっていける人であるような気がする。

 ホセ・ジェイムズのジャズは、そういう意味でまったく新しく、世界的なのである。

  • 出演:ホセ・ジェイムズ

    アメリカ、ミネソタ州生まれ。高校まではヒップホップにはまっていたが、ラジオのジャズステーションに感化され、ジャズ・シンガーを志す。NYのニュースクール大学に通う。2006年、ロンドンで行われた国際ジャズコンペティションに参加。名DJ/プロデューサーのジャイルス・ピーターソンに出会い、07年、ブラウンズレーベルと契約。08年に『The Dreamer』でデビュー。1月16日、EMI(ブルーノートレーベル)から『No Beginning No End』が日本で発売に。2月14、15日はビルボードライヴ東京でのライブも予定されている。
    http://emimusic.jp/artist/josejames/
    http://www.josejamesmusic.com

  • 取材・文:森 綾

    大阪市生まれ。スポニチ大阪文化部記者、FM802開局時の編成部員を経て、92年に上京後、現在に至るまで1500人以上の有名人のインタビューを手がける。自著には『マルイチ』(マガジンハウス)、『キティの涙』(集英社)(台湾版は『KITTY的眼涙』布克文化)など、女性の生き方についてのノンフィクション、エッセイが多い。タレント本のプロデュースも多く、ゲッターズ飯田の『ボーダーを着る女は95%モテない』『チョココロネが好きな女は95%エロい』(マガジンハウス)がヒット中。
    ブログ「森綾のおとなあやや日記」 http://blogs.yahoo.co.jp/dtjwy810

撮影:萩庭桂太