いつだったか、テレビ朝日の「徹子の部屋」という番組で彼女のことを知ってから、ずっと気になっていた。その後、テレビで彼女の特集を目にすることが多く、その度にじっと見入った。

 寺井尚子さん。ジャズ・バイオリニスト。来る2013年は、運命的にジャズに出会ってから30年、プロデビューして25年、CD デビューして15年という、大きな節目の年なのだそうだ。この連載の写真家・萩庭桂太は彼女のエッセイ集の写真を撮ったことがあり、なんと今回はニューアルバムのジャケット写真の撮影も仰せつかったという。

 撮影はスタジオと、東京・六本木のSTB139でのライブリハの際に行われた。

 私は生で演奏する彼女を初めて見た。

 黒いドレスで舞台に立つ彼女は、あまりにも妖艶であった。顎と肩でバイオリンを挟み、無我夢中に弾く顔は恍惚という言葉を超える何かがある。顎で挟むときに台のようなものをつける奏者も多いのだけれど、彼女はそれを必要としない。きっとバイオリンと体が一体なんだな、と分かる。

 リハーサル直後のインタビューでそのことに触れると、少女のように無垢な笑顔になって、こう答えてくれた。

「奏でる音が私の鎖骨から骨を通って、大地に広がるイメージなんです」

 寺井尚子のバイオリンのグラマラスな響きはそこから生まれる。しかしきっと、もっともっといろんな秘密があるに違いない。そう思わずにはいられない複層的な悩ましい音がそこにある。

 彼女の言葉をもうちょっと聴いてみたい。

  • 出演:寺井尚子

    神奈川県生まれ。4歳よりバイオリンを始める。少女時代から数々の賞を受賞、1988年、ジャズ・ヴァイオリニストとしてプロ・デビュー。2003年2月、EMI移籍第1弾「アンセム」で日本ゴールドディスク大賞<JAZZ ALBUM OF THE YEAR(国内部門)>を受賞。同年12月、移籍第2弾「ジャズ・ワルツ」でスイングジャーナル誌主催ジャズ・ディスク大賞「日本ジャズ賞」を受賞。2010年3月、文化庁「芸術選奨 文部科学大臣新人賞(大衆芸能部門)」を受賞。2013年1月30日にニューアルバム「セ・ラ・ヴィ」(EMIジャパン)が発売になり、5月には全国ツアーが予定されている。
    http://www.t-naoko.com/

  • 取材・文:森 綾

    大阪市生まれ。スポニチ大阪文化部記者、FM802開局時の編成部員を経て、92年に上京後、現在に至るまで1500人以上の有名人のインタビューを手がける。自著には『マルイチ』(マガジンハウス)、『キティの涙』(集英社)(台湾版は『KITTY的眼涙』布克文化)など、女性の生き方についてのノンフィクション、エッセイが多い。タレント本のプロデュースも多く、ゲッターズ飯田の『ボーダーを着る女は95%モテない』『チョココロネが好きな女は95%エロい』(マガジンハウス)がヒット中。
    ブログ「森綾のおとなあやや日記」 http://blogs.yahoo.co.jp/dtjwy810

撮影協力:STB139 http://stb139.co.jp/
撮影:萩庭桂太