2013年1月30日に発売されるアルバム「セ・ラ・ヴィ」は、自ら作曲した曲「心の音、愛の歌」という美しいメロディと「ラストタンゴ・イン・パリ」や「バラ色の人生」などヨーロピアン・ジャズの匂いにあふれた、洒落た内容だ。寺井尚子のグラマラスな音の魅力に情感が加わる。

 そして彼女は今回、16歳のときに初めて聴いたあの運命の一曲を自ら演奏している。「ワルツ・フォー・デビー」だ。

「なぜ今、という理由はないんです。なんとなく、今、弾いてみようかなという気持ちになったんです」

 思い入れをあえて言葉にしないところに、彼女のその曲への思いを感じる。

 本当に好きな人には、簡単に好きとは言わないように。

 インタビューの後、寺井尚子の本番の演奏を聴いた。命懸け、というのもおおげさではない。肩の骨がどうにかなっちゃうんじゃないかというくらい、激しく動く。その表情は苦渋に満ちているようにも、恍惚の淵を彷徨っているようにも思えて、見ていて切なくなる。

 演奏が終わると、寺井尚子は弓を高々と振り上げ、ぱあっと弾けるような笑顔を見せる。そしてそれは、満場の拍手に包まれた。

  • 出演:寺井尚子

    神奈川県生まれ。4歳よりバイオリンを始める。少女時代から数々の賞を受賞、1988年、ジャズ・ヴァイオリニストとしてプロ・デビュー。2003年2月、EMI移籍第1弾「アンセム」で日本ゴールドディスク大賞<JAZZ ALBUM OF THE YEAR(国内部門)>を受賞。同年12月、移籍第2弾「ジャズ・ワルツ」でスイングジャーナル誌主催ジャズ・ディスク大賞「日本ジャズ賞」を受賞。2010年3月、文化庁「芸術選奨 文部科学大臣新人賞(大衆芸能部門)」を受賞。2013年1月30日にニューアルバム「セ・ラ・ヴィ」(EMIジャパン)が発売になり、5月には全国ツアーが予定されている。
    http://www.t-naoko.com/

  • 取材・文:森 綾

    大阪市生まれ。スポニチ大阪文化部記者、FM802開局時の編成部員を経て、92年に上京後、現在に至るまで1500人以上の有名人のインタビューを手がける。自著には『マルイチ』(マガジンハウス)、『キティの涙』(集英社)(台湾版は『KITTY的眼涙』布克文化)など、女性の生き方についてのノンフィクション、エッセイが多い。タレント本のプロデュースも多く、ゲッターズ飯田の『ボーダーを着る女は95%モテない』『チョココロネが好きな女は95%エロい』(マガジンハウス)がヒット中。
    ブログ「森綾のおとなあやや日記」 http://blogs.yahoo.co.jp/dtjwy810

撮影協力:STB139 http://stb139.co.jp/
撮影:萩庭桂太