帰国後の澤田かおりは、ソロのシンガーソングライターと、ビッグネームのコーラスを並行して活動を行っている。コーラスとしては、MISIAと井上陽水のツアーをまわった。

 どちらも日本ではずば抜けて歌のレベルが高いシンガー。彼らは澤田のどこに魅力を感じてコーラスのオファーをしたのだろう――。

「うーん、自分ではよくわかりませんが、しいてあげれば、アンサンブルをものすごく意識して歌うからかもしれません。自分の歌よりも周りの音を聴くことを常に強く意識しています。ステージで鳴っている音を聴いて、自分の位置と役割を探すことは、ボストンのバークリー音楽院時代に体に染み込みました」

 MISIAのツアーでは、MISIAとコーラス隊がアドリブで掛け合いをするコーナーがあった。

「MISIAさんは毎回まったく違うアプローチをしてきます。豊かなイマジネーション、音楽の引き出しの多さを思い知らされました。MISIAさんのツアーでは、一流ミュージシャンと一緒に演奏する気持ちよさも体験させていただいた。バンマスは山下達郎さんのバンドメンバーやキロロのアレンジャーとして活躍してきたキーボードの重実徹さんです。毎回すごく丁寧にアドバイスしてくれました」

 ツアーの前半は、青山純がドラムスを叩いていた。山下達郎、吉田美奈子、ユーミン、井上陽水……など、1980年代から90年代の音楽シーンのボトムを支えていた日本最高峰のドラマーだ。2013年末に肺血栓塞栓症でこの世を去った。

「純さんのスネアの音はものすごく気持ちいい。微妙に遅れて、パン! と鳴ります。最高というのはこういう人を言うんだ、とステージ毎に感激しました。あの音で歌えたことはミュージシャンとしての私の宝物です」

 MISIAでのコーラスワークは口コミで広がり、陽水からのオファーにつながった。

「都内のスタジオを訪れると、本物の井上陽水さんがいました。もちろん初対面です。リハーサル曲は『あかずの踏切り』やジョン・レノンの『ラヴ』でした。陽水さんご自身がアコースティックギターで弾き語って、そこに自由にコーラスをつけるというスタイルです。わあー、本物の井上陽水だ。本物の声だ。胸が震えました」

 井上陽水のツアーでは日々凄みを感じている。

「40年第一線で活躍し続けるすごさを今身にしみて感じています。毎日何時間歌っても、声も体力も衰える気配もありません。ステージを重ねる度にパワーアップしていきます。すごい。陽水さんは、サウンドチェックでも本番のような声で歌い続けるんです。そして、終演後には、バンドメンバーの皆さんと食事に連れて行ってくれます。陽水さんは美食家で、とてもよく食べます(笑)。超一流は体のつくりも違うんですよ」

『I’m home.』

発売中(2014年1月18日発売)
CD 1,000円+税 HUCW-10510
https://www.youtube.com/watch?v=rvEhEVWi7oc

  • 澤田かおり

    1985年、米ワシントン州シアトルで生まれる。3歳からクラシックピアノ、エレクトーン、作曲をヤマハ音楽院学ぶ。桐朋女子高等学校作曲専攻卒業。2005年に渡米、ハーバード大学サマースクールEnglishプログラムを受講した後、マサチューセッツ州ボストンにある音楽の名門バークリー音楽院入学。09年に帰国。13年に音楽を手掛けた東芝「LED10年カレンダー」のCMが複数の広告賞を獲得する。12年にインディーズレーベルから、アルバム『PRISM』をリリース。13年にMISIAのデビュー15周年ツアーにコーラスで参加。14年は井上陽水の「氷の世界」ツアーにコーラスで参加。最新作は『I’m home.』(ハッツ・アンリミテッド 3曲入り¥1,000+税)。7月3日に東京・渋谷「shibuya gee-ge.」でライヴを行う。
    http://kaorisawada.com/

  • 取材・文:神舘和典

    1962年東京都出身。音楽を中心に書籍や雑誌のコラムを執筆。ミュージシャンのインタビューは年間約70本。コンサート取材は年間約80本。1998年~2000年はニューヨークを拠点にその当時生存したジャズミュージシャンをほぼインタビューした。『ジャズの鉄板50枚+α』『音楽ライターが、書けなかった話』(以上新潮新書)、『25人の偉大なジャズメンが語る名盤・名言・名演奏』(幻冬舎新書)、『上原ひろみ サマーレインの彼方』(幻冬舎文庫)など著書多数。

    新潮新書 http://www.shinchosha.co.jp/writer/1456/
    幻冬舎新書 http://www.gentosha.co.jp/book/b4920.html

ヘアメイク:西田裕美子 https://www.facebook.com/yumikonishida.deuce
撮影:萩庭桂太