ニュースクールを卒業後、黒田卓也は自分でバンドを作り、演奏活動を続けてきた。

「自主制作で1年に一回、計3枚アルバムを作りました。渋谷のタワレコに売り込みに行ったこともあります。そのときは『会社としか取引していないんです』と言われて、ちっちゃくても日本のレーベルに入ったほうがいいのかなと悩んだりしました。『ジャズ批評』という雑誌のライターの方が『焦らなくていい。がんばりな』と言ってくださったのが励みになった。少しずつ、次のステップへ、次のステップへと。夏には自分でブッキングして、車を借りてツアーをしたり」

 舞台を変えたひとつのきっかけは、同じくニュースクールの卒業生である、ホセ・ジェイムズとの出会いだった。

 黒田さんはホセ・ジェイムズのことを正しい発音で「ホゼ」と呼ぶ。

「最後の1学期かぶってたくらいだと思うけど、実は学校ではほとんど会っていないんです。共通の友人がいて、その友人が双方を誘っていたイベントで出会った。それで、ちょうどホゼが『BLACKMAGIC』というアルバムを録音していたときで、トランペットを探しているからやってくれないかと。そこから少しずつ仕事を回してくれるようになりました。ちょうど日本に帰国しているときに、ホゼも来ていて、僕のライブを見に来てくれたり。2~3年して、正式にバンド・メンバーにならないかという話をもらいました」

 ホセ・ジェイムズはすでにブルーノート所属のアーティストであり、ヨーロッパを始め世界的にブレイクしていた。

「ホゼが世界の扉を開いてくれた。ヨーロッパに行き、シンガポールに行き。何千人という人の前で演奏したことで、viewが変わりました」

 5月25日。「黒田卓也」としてビルボード東京を満杯にしたのは、自主制作の時代から共に演奏してきたメンバーだった。

 より大きなviewを彼らとともに見る黒田のあたたかさが、音になっておおらかに伝わってくる気がした。

黒田卓也/Takuya Kuroda(Trumpet)
大林武司/Takeshi Ohbayashi(Piano, Keyboards)
コーリー・キング/Corey King(Trombone)
ラシャーン・カーター/Rashaan Carter(Bass)
アダム・ジャクソン/Adam Jackson(Drums)
  • 黒田卓也

    1980年兵庫県生まれ。甲南中学時代から同校のビッグバンドに所属。甲南大学を卒業後、2003年にニューヨークへ渡り、ニュースクール大学留学。卒業後、現地でバンド活動を続け、自主制作でアルバムを発表。共通の友人の紹介で現在ブルーノートのアーティストの1人であるホセ・ジェイムズと出会い、彼のバンドで演奏。今年2月、USブルーノートと日本人で初めて契約、アルバム『RISING SON』を発表した。オリジナル・バンドで登場した5月のビルボード東京講演はソールドアウト。今後の更なる飛躍が期待される。
    http://www.universal-music.co.jp/kuroda-takuya/
    http://www.takuyakuroda.com/

  • 取材・文:森 綾

    1964年大阪生まれ。ラジオDJ、スポーツニッポン文化部記者、FM802編成部を経て、92年に上京、フリーランスに。雑誌、新聞を中心に発表した2000人以上のインタビュー歴をもち、構成したタレント本多数。自著には女性の生き方をテーマにしたものが多く『キティの涙』(集英社)、『マルイチ』(マガジンハウス)、『大阪の女はえらい』(光文社知恵の森文庫)、映画『音楽人』の原作など。
    ブログ『森綾のおとなあやや日記』 http://blogs.yahoo.co.jp/dtjwy810

撮影:萩庭桂太