ペレのギターでボサ・ノヴァを歌っていた10代。
小野リサ
- Magazine ID: 1443
- Posted: 2014.05.29
小野リサが日本に来たのは1972年。
父親が突然「日本に帰る」と言いだした。
「ものすごくショックでした」
小野はふり返る。
両親にとっての日本は帰る場所だが、当時10歳だった彼女にとっては友達と別れて未知の国へ行くことになる。
当然抵抗した。しかし、父親は娘の気持ちなど考慮しない。
「それならば一人でブラジルに残りなさい」
一蹴された。子どもにはどうすることもできない。
「私はスーパーのレコード売り場に走りました。そして、レコードを10枚くらいまとめ買いしました。ミルトン・ナシメントやジョニー・アルフやその頃流行っていたテレビの恋愛ドラマの主題曲です」
それを荷物に詰めて、日本へやってきた。
日本での最初の住まいは東京大田区の大森。
「サンパウロの父の店で演奏していたアコーディオン奏者のかたがビルを持っていて、そこで暮らすことになりました。アコーディオン奏者といっても父の友人で、本業は電気屋さんですけれど(笑)」
東京では毎日ブラジルの音楽を聴き、故郷を思った。
そして、自分の歌をカセットテープに録音して、幼い頃からずっと遊んでくれていたブラジル人お手伝いさんの女性に送った。
ブラジルからも音楽のカセットが送られてくる。
この“歌の文通”が小野リサのミュージシャンとしての原点となった。
「そして15歳の頃にはギターを弾きながら歌うようになりました」
このギターがレアものだった。
“サッカーの王様”ペレが弾いたギターなのだ。
「父がペレの日本でのイベントのプロモーションにかかわったんです。その時ホテルの部屋でペレが毎日弾いていたギターをおいていきました」
ペレのギターで、小野はボサ・ノヴァ・シンガーとしての声に磨きをかけた。
「その当時よく歌っていたのが新作『ブラジル』にも収録した『シュビ・シュバ』でした」
ところで、そのペレのギターは今も持っているのだろうか?
「ああ……、どうしたんだろう……。確か父が誰かにあげてしまったはずです」
モノの価値などは考えない父娘なのだ。
『ブラジル』
発売中(2014年5月21日発売)
CD 3,000円+税 MUCD-1296
http://www.dreamusic.co.jp/artists/japanese/lisa-ono/mucd-1296.html
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小野リサ
ボサ・ノヴァ・シンガー。ブラジルのサンパウロで生まれる。1989年にアルバム『カトピリ』でデビュー。『ナナン』『ミニーナ』『サウダージ』など質の高い作品をリリースしていく。2007年から10年にかけて“音楽の旅”というテーマで、ロック、ソウル、ジャズ、アジア音楽などをボサ・ノヴァのテイストにアレンジしたアルバムをリリース。その後、日本に目を向け『Japão(ジャポン)』『Japão2(ジャポン ドイス)』をリリース。最新アルバムは『ブラジル』(ドリーミュージック・¥3,000+税)。
6月5日(木)「小野リサ ボサノヴァコンサート」東京・よみうり大手町ホール
6月24日(火)~27日(金)「小野リサ“BRASIL” with special guest マリオ・アジネー」ブルーノート東京
7月3日(木)・4日(金)「小野リサ ニューアルバム“BRAZIL”ツアー」名古屋ブルーノート
7月20日(日)「小野リサ ボサノヴァ・ナイト」八ヶ岳高原ロッジ
8月23日(土)「LISA ONO Heartfull Acousutick Live 2014 」横浜・関内ホール
http://onolisa.com/ -
取材・文:神舘和典
1962年東京都出身。音楽を中心に書籍や雑誌のコラムを執筆。ミュージシャンのインタビューは年間約70本。コンサート取材は年間約80本。1998年~2000年はニューヨークを拠点にその当時生存したジャズミュージシャンをほぼインタビューした。『ジャズの鉄板50枚+α』『音楽ライターが、書けなかった話』(以上新潮新書)、『25人の偉大なジャズメンが語る名盤・名言・名演奏』(幻冬舎新書)、『上原ひろみ サマーレインの彼方』(幻冬舎文庫)など著書多数。
新潮新書 http://www.shinchosha.co.jp/writer/1456/
幻冬舎新書 http://www.gentosha.co.jp/book/b4920.html
撮影協力:ブルーノート東京 http://www.bluenote.co.jp/jp/
撮影:萩庭桂太