産後2カ月目。歩くことから始めた理恵さんは、もうマラソンは無理だと思ったという。

「イヌの散歩に行くんですけど、イヌが走り出すとつらくて一緒に走れないんですよ。そのときは自分の身体じゃないみたいだと思いました。フルマラソンなんてとても無理だと」

 そんな彼女の身体を少しずつ元気にしてくれたのが、バギー・エクササイズだった。

「バギー・エクササイズというのをやっているインストラクターさんと出会ったんです。子どもを載せるバギーを押しながら、できるエクササイズ。代々木公園にママたちが集まって、ストレッチしたりして、やってみたらすごく気持ちがよかったんです。余裕がもてました。それで、私みたいにふさぎこんでる人がたくさんいるだろうから、こういうのが広まったらいいなあと思って、インストラクターの養成コースにも通いました」

 はまったらとことんやる生一本な性格。でも自らの身体を少しずつ元に戻すのに最適な方法だった。子育てをする同じ境遇のママたちとコミュニケーションをとれたことも、よかったのだろう。同時に、バギーで歩くと、バリアフリーということにもより理解が深まった。

「バギーと同じように車いすだとスロープがあると大変だなあと親身にわかります。都内には歩道橋しかない場所も何カ所かあって困るな、とか」

 そんな思いが、走ることをチャリティーに生かすことにも結びつけた。

 東京マラソンは、単に「お金を払って権利を買う」ように誤解されているが、そうではないのだ。自分がファンドレイザーとなって、寄付先を選び、家族や知人や賛同してくれる人から10万円以上の寄付が集まれば、参加権を取得できる。理恵さんは、日本障害者スポーツ協会を選んだ。理恵さんが再挑戦に東京マラソンを選んだのは、その考えに賛同した部分も大きい。

「例えばロンドンマラソンでは、3万5千人以上の参加ランナーのおよそ4分の3が、チャリティ目的で参加しています。チャリティを目的として参加しているいずれのランナーも、自分の寄付金だけでなく、友人や同僚から寄付を募り、それらの善意を代表してマラソン大会に出場するという活動をしています。

 世界的には、マラソン大会に出場して走ることを「楽しむ」だけでなく、走ることを通じて「社会に貢献する」という文化的な側面も伝えていきたいです。」

 東京オリンピック後に開催されるパラリンピックにも目を向ける。

「障害をもったアスリートたちが練習できるグランドが、日本にはまだまだ少ない。東京には2カ所しかないんです。それを支援できたらと思っています」。

  • 長谷川理恵

    1973年12月1日神奈川県生まれ。93年、「Can Cam」(小学館)に読者モデルとして初登場し、その後、ファッション誌の人気モデルとして活躍。2000年にテレビ番組の企画でホノルルマラソンに参加以降、数々の大会に出場。その後、野菜ソムリエの資格を取得。走ることとチャリティーを結ぶ活動にも積極的で、インターネットで寄附を募る団体「ジャスト・ギビング・ジャパン」を通して「Smile & Run」チャリティープロジェクトを立ち上げる。12年10月末に第一子を出産。親子で運動できる「バギーラン・バギーエクササイズ」のインストラクター資格も取得。14年2月23日の東京マラソンで、チャリティーランナーとして、産後初のフルマラソンを3時間31分26秒の好タイムで完走した。
    公式ブログ『リエゴト』http://ameblo.jp/hasegawarie/

  • 取材・文:森 綾

    1964年大阪生まれ。ラジオDJ、スポーツニッポン文化部記者、FM802編成部を経て、92年に上京、フリーランスに。雑誌、新聞を中心に発表した2000人以上のインタビュー歴をもち、構成したタレント本多数。自著には女性の生き方をテーマにしたものが多く『キティの涙』(集英社)、『マルイチ』(マガジンハウス)、『大阪の女はえらい』(光文社知恵の森文庫)、映画『音楽人』の原作など。
    ブログ『森綾のおとなあやや日記』 http://blogs.yahoo.co.jp/dtjwy810

ヘアメイク:浩平(HEADS)
撮影:萩庭桂太