長谷川理恵さんは、東京マラソンを納得のタイムで完走した。彼女を支えたのは38歳で男の子を出産するという大きな経験だった。

「マラソンで鍛えてきたつもりだったんですが、出産前のほうが体力がなかったと思います。出産は大変でした。20時間かかったんです。陣痛はゴールがない痛みなんですよ。いつ生まれるのかは誰もわからない。『あと何時間がんばればいいの』という気持ちで精神的にまいってしまいました。恥ずかしいですが『助けて~』と言ってしまって助産師さんに『これでも助けてるのよ。しっかりしなさい』と言われてしまいました(笑)。『こんなに苦しんだと思うから可愛さも増しますよ』とも励ましていただきました。泣きながらマラソンなんて甘かった、と思いました」

 大きな病気を一度もしたことがなく、大きな痛みを感じたこともなく育った彼女にとって、想像を絶するものだったようだ。

 男性読者には想像もつかないだろうが、彼女の助産師さんいわく「男性なら大事なところを蹴られ続ける感覚」なのだそうだ……。

 産後も、戸惑うことだらけだった。

「産んだ瞬間、先生が『ここからがスタートですからね』とおっしゃって。子宮が収縮する痛みもあったし、その日から授乳も始まってあまり眠れない。でも、周りの人のおかげで、なんとか助けられました。ただ産後、ホルモンのバランスが崩れるので、1カ月くらいは軽いうつ状態みたいになりました。ちょっとしたことで涙が出ちゃうんです。身体もボロボロだし。夫に『いいからちょっと寝なよ』と言われるだけで『ありがとう』と、また泣けたりして(笑)」

 2人目は? とは尋ねにくかったが、自分からこう言ってくれた。

「今度は無痛分娩で!」。

  • 長谷川理恵

    1973年12月1日神奈川県生まれ。93年、「Can Cam」(小学館)に読者モデルとして初登場し、その後、ファッション誌の人気モデルとして活躍。2000年にテレビ番組の企画でホノルルマラソンに参加以降、数々の大会に出場。その後、野菜ソムリエの資格を取得。走ることとチャリティーを結ぶ活動にも積極的で、インターネットで寄附を募る団体「ジャスト・ギビング・ジャパン」を通して「Smile & Run」チャリティープロジェクトを立ち上げる。12年10月末に第一子を出産。親子で運動できる「バギーラン・バギーエクササイズ」のインストラクター資格も取得。14年2月23日の東京マラソンで、チャリティーランナーとして、産後初のフルマラソンを3時間31分26秒の好タイムで完走した。
    公式ブログ『リエゴト』http://ameblo.jp/hasegawarie/

  • 取材・文:森 綾

    1964年大阪生まれ。ラジオDJ、スポーツニッポン文化部記者、FM802編成部を経て、92年に上京、フリーランスに。雑誌、新聞を中心に発表した2000人以上のインタビュー歴をもち、構成したタレント本多数。自著には女性の生き方をテーマにしたものが多く『キティの涙』(集英社)、『マルイチ』(マガジンハウス)、『大阪の女はえらい』(光文社知恵の森文庫)、映画『音楽人』の原作など。
    ブログ『森綾のおとなあやや日記』 http://blogs.yahoo.co.jp/dtjwy810

ヘアメイク:浩平(HEADS)
撮影:萩庭桂太